凧にうさぎのぬいぐるみを括り付けて走る。
凧はぬいぐるみの重さに辟易しているかのように低空を進んでいたが、やがてふわりと高度を増し空高く舞い上がった。
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「それはあなたが持っていなさい、形見だから」
そういって押し返されたぬいぐるみは、あの人がとても大事にしていたものだ。
言い返すこともできないまま棺はどこかへ運ばれて、次に見たときは骨の混ざった灰になっていた。煙になって空へ旅立ったのだと教えてもらった。
うさぎのぬいぐるみが私の腕の中から燃えかすを見つめていて、置いて行かれて悲しんでいるのだと思った。
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しばらく空を彷徨った後に地上に降りた凧を拾って、うさぎのぬいぐるみを取り外す。
どこかの国では、メッセージを込めた色鮮やかな凧を死者へ向けて一斉に揚げるのだと聞いた。
空から戻ってきたぬいぐるみがひんやりとしているのは、あの人が抱きしめたからだ。心なしか軽くなったように感じるのは、魂の重さだ、そう思った。ぬいぐるみもあの人についていったのだ。遠くてもう会えないけど、消えたわけじゃないということがわかった気がした。