仕事を辞めて、暖かいところにでも旅をして美味しいものを食べたらのんびり死のうと思った。リュックに入るだけのものを持って……。結局そんなことはせずに生き延びている。
でも本気だった。持っていくものを決めて、生命保険を解約するための書類を取り寄せて、清掃業者のチラシは取っておいて、仕事を辞める旨を伝えて。死ぬなら餓死かなとか、失踪するときのことを調べてみたりもした。
でも口座残高はまだだいぶ余裕があるし、「どこかで美味しいものをたべてのんびり」をもっと時間をかけてやってもいいのかなと思った。とはいえ何もかもが面倒だったので、ダメ元で遠くの実家に住む両親に引っ越しの手伝いを頼んで、引き受けてもらえたら生き延びようと思った。あっさり引き受けてもらえた。
有休消化に入り、職場が借り上げているアパートの部屋からは出なければならない為、家を探す。実家のある県が何かと交通の便も良く、そこから東京寄りの場所でも探そうかと思っていたら、実家近くに越すことを勧められた。一人暮らしに慣れきってしまった身に実家の気配は重たい。しかしキッパリ断ることもできなければ住みたい地域が決まっているわけでも無く、結局は実家の隣駅の地域に住むことになった。
それがちょうど1年前。
正直詳しいことは覚えていないが、最終的に私は失踪することも死ぬこともなく、無職のままのうのうと生きている。
今後どうしたいとかもなく、死ぬなら死ぬでいいし、働いてまで生きる気力もない。お金が尽きそうになったら次こそ失踪するのか、諦めて仕事を探すのか自分にもわからない。……後者になる気がする。