氷河期に、分厚い脂肪と筋肉の鎧を張り、そのうえからガビガビの毛皮を着こんでいた、ゾウぐらいあるヤマアラシみたいな生物が、最近惑星の温暖化に伴って武装をドンドン解いている。今、その生物は熱帯地域のネズミみたいに、小さく薄い身体を晒してほとんど裸(※)で楽しそうに駆け回っている。
小動物は、小さければ小さいほど大量の食物、例えばトガリネズミなら1日に体重と同じぐらいの食物を摂取しなければ餓死してしまうわけだが、生きるのがそんなに楽しいのか、この生物はドンドン食ってドンドン代謝し、いよいよ軽薄に、ほとんどつむじ風に弄ばれているようなスピードで危うく飛び回っている。
生物にはよいことがあった。心臓に詰まっていた、冷たく固まった氷河期の脂肪の名残を、氷河期の頃はもう一生取り出せまいと思っていた胸苦しい塊を、カラ元気に任せてエイヤッとほじくってみた。
すると、脂肪はじゅっと溶けて、とろけて、生物の小さな前足の中でじんわりと消えていった。あまりに素早かった。
涙のような脂のしたたりだった。
世界は今はまだ優しく、生物は小ささゆえの万能感に満ちている。いずれ気流から転げ落ちてしたたか背骨を折るだろうが、これが世界で生きるということなのかもしれないと、自分はこの小さきものを見ていて思うのである。
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※この脂肪や毛皮の層が薄いことが、先の日記に書いた「露出」なのだと思う。この生物、世界を謳歌しながら周囲の動植物のみなさんにご不快を催しているかもしれない。ああ……