短話 おこめ騒動

 自分はひとつの巣を複数匹のネズミたちと共有しているネズミなのだが、最近生活費(おこめつぶで支払う)の按分がまちがっているきがしてきた。

 自分の負担大きくね? という話ではない。なんかうまいこと言い抜けられて、自分の負担妙に少ないのでは? という話である。

 自分にはおこめ計算がわからぬ。自分は田舎のネズミである。ダンゴムシを牧したり、しゃくとりむしをのばしたり縮めたりして暮らしてきた。しかし「あれ? なんか多く払ってもらってない?」感には人一倍、もといネズミ一倍に敏感であった。

 我々が生活おこめつぶの割合を決めたときはこうである。

「いよいよ新居に越すわけですが、おこめつぶの割合はどうしましょうか」

「そうですね。家賃、もとい巣賃は、穴数が今より増えるぶん割高になっています。申し訳ないが、巣賃の一部を負担してもらえますか」

「なにも申し訳なくありませんね。わかりました。ちょうど新居の巣賃である32おこめつぶは、月々都会のネズミが1匹暮らしをするのとおなじぐらいのおこめつぶです。自分が巣賃を払いましょう」

「いや、それでは多過ぎます。都会のネズミの1匹暮らしの巣賃はまあ12おこめつぶといったところでしょう。そこに生活費6おこめつぶを足して、ひとつき18おこめつぶ払ってください。この18おこめつぶを巣賃の支払いに充てます」

「なるほど、では自分が18おこめつぶ支払うならば、残りの家賃は14おこめつぶですね。自分のコオロギ獲りのアルバイトでは巣穴補助の制度(※1)があり、毎月6おこめつぶもらえるので、残りの8おこめつぶ払ってもらえますか」

「? いやいや。6おこめつぶはあなたがもらうんですよ」

「?」

「?」

(流れる宇宙空間)

「いやいや。それは違いませんか」

「違いませんね。あなたはコオロギ業者から6おこめつぶの巣穴補助をもらい、18おこめつぶを出します。つまり、実質12おこめつぶ負担することになります。私は32おこめつぶから18おこめつぶを引いた14おこめつぶを支払います」

「いやいや、それではあなたが払ってくれていた元の巣穴の巣賃10おこめつぶから4おこめつぶも値上がりしてしまうではありませんか」

「都会に出るということはそういうことです」

「そうかな~? 32おこめつぶの巣賃は、6おこめつぶのコオロギ手当によって26おこめつぶになったことにし、あなたは私が出した残りのおこめつぶ額を出すのが普通の計算ではありませんか?」

「あなたよ。よくお聞きなさい」

「は、はい」

「世の中のミミズ採りやどんぐりころがしのアルバイトでは、巣穴補助はふつう4おこめつぶくらいです」

「はあ、そうなんですか」

(※今にして思うとこれもやや疑わしい)

「そこでコオロギ獲りという、6おこめつぶの手当てが出るおこめにみちたfarm(※2)なアルバイトを見つけたのは、あなたの努力です」

「はあ。コオロギですけど」

「よってこのおこめつぶ6顆は、あなたの取り分です。さあお取りなさい」

「いや、まだおこめつぶ6顆はここにはないのですが。まあ……そこまで言うならわかりました。お言葉に甘えて、12おこめつぶ出します」

「そうしてください」

 こうして書いていて思ったが、これほぼ壺算の論理じゃないか? 違うのは向こうが多く払おう払おうとしていることだけで……

 また、ここのところ忘れていたことには、このネズミは異様に口がうまい。タヌキに生まれなかったのは運命のうっかりミスではないかという疑いがある。そういえばどことなしにタヌキに似てもいる。

 しかし侮るなかれ、こちらもそんじょそこらのネズミではない。うかうかと流されかけて、おや……? と気づいた。数日後のことである。

「この間のことですが」

「なんです」

「生活費のことです。ふと思ったのですが、巣穴賃12おこめつぶはよいとして、生活費6おこめつぶは少なすぎませんか。足が出るのでは。足どころかしっぽも出るのでは」

「そんなことはありません。1歳7か月ぐらいのネズミが他ネズミと共同生活を送る際に持つ生活おこめは、だいたい6おこめつぶくらいということになっています」

「そうでしょうか」

 そのとき別のネズミが飛び込んできた。

「そうですとも!」

「ウワッ上からくるぞ、気をつけろ。何がそうなんですか」

(びちーんと着地しながら)「生活費ですよ! 6おこめつぶというのは全く妥当なおこめの数です!」

「今おなかを打ちませんでしたか? ……そういうものでしょうか」

「そうです! 昔からそのくらいが相場だと言われています!」

「そうですか……。わかりました。では今はお二匹の言う通り、生活費6おこめつぶ、巣賃12おこめつぶの計18おこめつぶを支払い、コオロギお手当の6おこめつぶを受け取ります」

「そうしてください」

「そうしてください!」

「今はまだな……」

「何か言ってる!」

 そういうわけで、そういうことになったのだが、この生活費の相場というのも今思うと怪しい。この2匹目のネズミはなんせ、もう5歳になろうかという長寿である。ネズミ相場は目まぐるしく、昨日と今日でさえまずもって通貨単位から変わってくる。2匹目のネズミの言う「相場」っていつの話だ? まだおこめつぶが通貨に登場すらしていない、タンポポの種とかをふうわふわと交換し合っていた頃じゃないのか? その6おこめつぶって今でいう12おこめつぶぐらいだったりしないか? 自分は騙されているのではないか?

 とはいえ、コオロギ工船員の悲しさで、有無を言わせず米俵で殴るほどのおこめぢからはまだ自分にはない。今はただ、いずれコオロギ長者になることを決意して前歯を研ぐばかりである。とりあえず今月のところは、この頬袋に隠したささやかなおこめひとつぶをいかにして受け取らせるか、様子を窺っている。

end🐀~

――――――――――

※1 ネズミなら巣穴を借りたりせず自分で穴を掘ればいいのでは? 穴を掘ることを忘れたひ弱な世代、家畜化されるげっ歯目たち……。

※2 farm:(形)しっかりした、固い (名)農場 (※3)

※3 ↑※2は辞書を引かずに書いています。

@mabanashi8
日記などを書きます。すぐにうっちゃる可能性があります。