本当です。信じてください。
女子小学生に声をかけられたのは本当です。
信じてください。
おまわりさんは呼ばないでください。
声をかけられる少し前から話すと、
息子と二人で自転車でお出かけをしていました。
息子がスーパーに寄りたいというので、スーパーに寄りました。
お買い物をして停めていた自転車に戻ってきたときでした。
「あのー、すみません!」
と急に、女子小学生に声をかけられました。
自分は、昔からよく道を聞かれるタイプの人間でした。
しかし、女子小学生に声をかけられたのは初めてでした。
内心、キョドってしまったが、
よく見るとその女子の手には、サクマ式ドロップスを持っており、
「これ、開けてくれませんか?」
と言うのです。
なんだ、そんなことか。
「ああ、いいよ!」
と二つ返事をしてから、気づく。
幼き頃のサクマ式ドロップスの蓋の硬さを。
どんなことをしても、開かないその蓋はまさにパンドラの箱を彷彿とさせる。
中に、とんでもないお宝(キャンディ)が入っているのか。そのワクワクの高さと相対して、びくともしない蓋の硬さがあった。
己の強靭な肉体(指先)だけでは、歯が立たず、大抵は硬い棒とテコの原理を用いてようやく到達できること。
様々な記憶を呼び起こしながら改めて、女児の手元を見た。
無論、サクマ式ドロップスの缶は新品である。
一方、自分は身長 180 cm あり、端から見れば屈強な成人男性である。
女児からすれば、お前だったら開けられるだろと言わんばかりの目線が刺さる。
ファーストトライ。蓋はびくともしない。
焦る指先。突き刺さる視線。
セカンドトライ。やや蓋がずれた。
よし、きた。僅かな希望が見えた。
サードトライ。びくともしない。
ここに来てサクマ式ドロップスの反撃を食らう。痛む指先。
そして、フォーストライ。開いた。ようやく開いたのだ。
個人的には喜びに浸りたいが、その気分を表出するのは、小学生女児に見られるのはいささか恥ずかしい。
そっけなく、蓋が外れたサクマ式ドロップスを小学生女児にわたす。そして、さっそうと立ち去る。彼女にとって、私はどう写っていたのでろうか。変な大人に写っていなければいいなと思った。
そんなことを思いながら、息子には困った人に声をかけられたときは助けてあげられるようになってほしいなと思った。