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安堂ホセ『DTOPIA デートピア』

真冬の海
·
公開:2025/3/29

他人を傷付けることの無い言葉を選ぶ、それは自分を守ることに繋がりひいては安心感のある社会を形造る一助になるのだと思う。安堂ホセさんの言葉はほんの少しずつ私の心をざらつかせ、読み進めるうちにいつか嬉しくない方向の痛みになった。言葉そのものと言うより、醸される空気とか押しつけられる無言有言の圧みたいなものかな。

今、自分がどこに立ち何を見ているのか、目で追っている文章から少し遅れてようやくそれを認識する。そして気が付けばそんなタイムラグをまた味わっている。最後までこの繰り返しで非常にユニークな読書体験だった。

また主人公(おれ、私)が登場するまでずっとメインぽいはずの汽水が二人称呼びなのも気になっていて、この違和感を長引かせる構成も独特、そしてデートピア部分のセリフの書き方が特に個性的で面白いと感じた。一度目読了直後はこの表現方法に訥々としたスムーズではない不思議な印象を抱き、そこに癖になるような好ましさを感じたのだが、回想部分は全員普通に話しているので、これは作中何度も書かれていた『編集して切り貼りされた』状態を表現しているのだろうかと考え直した。個性的作風の好ましさは変わらない。

虚無の子宮

国(国籍)、地域、肌の色、性別、社会的地位や属性、そして時間までもがボーダーレスに描かれていた。そのボーダーレスに自由はなかったけれど。とは言えタイトルにもなっているデートピアに関しては、これでもかというレベルでボーダー強く女性性と男性性を強調するような仕組みであり、そこでそれぞれの個性はぼやけていて、卵子役精子役はあれど決して何も生み出さない虚無の子宮のようだと思った。その意味においてミスユニバースに最初に到達し得た勝者(?)を敢えて指すならばマルセルになるのかな。デート兵云々を考えるととても皮肉である。

どんなに社会が変化しようとも、女性男性蔑視とか優位性とか上下とかではなく原始的とも思えるこの営みはどうしようもなく、残念ながら変化しないし続いてゆくのだと改めて突きつけられたような心持ちになった。解っているから止めて欲しい、そんな気持ち。ラストがまさにそれで、読了していた事に一瞬気付けなかった。Date7、8、9、10が残っている。続いてゆく……まだ抜け出せないのだな……と呆然、うんざり、そして諦めに似た気分になった。

ここでの出来事はコンテンツとして外部視聴者の下世話好奇心に消費され続けるのだろうなあ。魔女裁判のような、ポルノのような娯楽と同じように。人間は時代を超えて変わらない。

「暴力から暴とれないか……」

親に養育されながら反発心を抱く、国からの恩恵を受けながら悪態をつく、きまりの枠の中にある自由はちょっと不自由だけれども安全が保証されたもので、その枠を逸脱するのは不法である。汽水(キース)は合意という免罪符により法の目をかいくぐり、暴力と言われた行為から暴を取り去ることができたように考えていたのだろうか? その幼いまでの身勝手さはまさに暴力そのものだと思えた。

またこの作中そこかしこに暴力が散見されるのも辛い理由のひとつだった。物理的なものに限らず、いたずら心みたいなものから意識的無意識的な偏見に至るまで。間違いなく私も誰かを傷付けているし、傷いた経験もある。他人との摩擦で傷付きながらも人はひとりでは生きていけないのであるならば、暴力と完全に無縁で生きるなんて可能なのだろうか。暴力から暴を取り去れば力になるだなんて想像もできない。

百之助の視線には安定感があり、全方向に優しさの感じられるのが良かった。汽水がいつか暴を取ることが出来るのかどうかを、ここまで無条件に汽水を信じていられる百之助は作中の救いに近かった。汽水と行動を共にしていた中学生時代の回想はこれだけで成立しそうな、きまりの中で自分なりに足掻く2人の青春物語だった。

ボーダーレスレス

ボーダーレスがとても良い事のように語られる世界で体現するように生まれた彼ら(2人とも、そしてマルセルも)は必ずしも幸福ばかりなどではないし、ボーダーレスを極めた先にある自由と不法の果てが半グレどころか完全に闇だったのが悲しく恐ろしかった。私たちの欲しいボーダーレスとは安全が保証されていて欲しい、畢竟身勝手の極みでかなり夢の入ったものなのだろうなと反省した。

現代を表す言葉のひとつで、かつてボーダーのあった部分が何もかもすっきり解決され綺麗に混じり合っている事はまるでなくて、実際良くてグラデーションのような濃淡か、実際根強い差別のあるのが現実だと思う。そんな残酷さが回想部分、デートピア部分それぞれでリアルに描かれていたように思う。

理想的ボーダーレスな状態を描いたのではなく、現状の未成熟なまだらボーダーレス状態を疑似体験することのできる世界観を文字で創り上げた安堂ホセさんは、今後さらに変化する社会を文字で拡張させる事が可能な稀有な方なのだと思った。時代のキーワードの切り口が生々しいに過ぎるきらいがあるけれど。


課題でなければ自分では決して選ばないタイプの作品をじっくり読めたのは読書会のおかげです。いつも皆さんありがとうございます。プレゼンも、皆さんのご感想をまとめてくださるデータもほんとほんと楽しくて嬉しいです。殆ど参加できなくて非常に申し訳ないです。

@mafuyu
読書感想にはネタバレあります