『夜の寝覚』を読んで

mai_swan
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角川ビギナーズクラシックス 乾澄子編『夜の寝覚』を読んだ。この本のタイトルであり、主人公の呼称でもある「寝覚」とは本文現代語訳によると、"物思いが募って夜中に目覚めがちになること"。源氏物語では紫の上や葵の上、藤壺など華やかな呼び名を持つ女君が多いのに対し、この物語の主人公の呼び名は「寝覚の上」。物語の全編にわたって苦悩が尽きず眠れぬ夜を過ごしている。

主人公の中の君(のちの寝覚の上)は姉の夫である男君、老関白、帝と三人の男性から次々に見初められるが、すぐには靡かない。いつも自分の立場を弁え、周囲に気を遣い、自分の殻に閉じこもって夜も眠れないほど思い悩んでしまう。とは言えいつまでも心を閉したままでもなく、共に過ごす時間の長さとともに相手へのほのかな愛情を感じるようになってくるあたり、心理描写が巧みだなと思う。高貴な生まれであっても、結婚しても、可愛い子どもに恵まれても、その思慮深さのためにいつも悩みが尽きない主人公にとても好感を持った。