三者三様

manatsu
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「子どもたちの面倒を見てほしい」って頼まれた時は、本当に困ってしまった。だって私は出産未経験。子どもなんてどう扱ったらいいかわからない。

 みんなもう5歳だから、自分たちで勝手に遊ばせておいて、危険がないか見張ってるだけでいいわよ、なんて気楽なことを言う姉を恨んだ。

 わたし、子どもって、苦手なのよね。知ってるくせに。

 多様性だなんだって言われて数年経っても、「女は結婚して子どもを産むのが幸せ」って押しつけは、まだ重たい空気みたいにじんわりと蔓延したまま。母が、姉に頼んでわたしに「子どもっていいな」って思わせる作戦でこんなことしたのはわかってる。面倒くさい。うっすらと、プレッシャーを感じる。

「ほら、お姉ちゃんにごあいさつ」

 姉が連れてきたのは、三人。兄の子どものみぃくんと、姉の子どものひぃちゃんと、姉の友達の子どものまぁちゃん。同じ年で、幼稚園のお友達らしい。みぃくんは、ザ・男の子って感じ。日焼けして黒髪を短く切りそろえた元気な子。ひぃちゃんは、本が好きな大人しい女の子。まぁちゃんは、ちょっとぽっちゃりとした食いしん坊さん。

「こんにちは」

 三人はお行儀よく頭を下げたかと思ったら、私の向こうのリビングへ駆けだしていく。姉の家で遊ぶことはよくあるらしく、慣れたものだ。わたしは今日ここで、姉たちが楽しくランチ会をする間、子守をする。

「あ、これ。まぁちゃんのおかあさんがね、プリンどうぞって。子ども達が騒ぎ出したり泣き出したりしたときに出せばいいわよ」

 姉からプリンを預かって冷蔵庫に入れに行く。こういう付き合いとかあるのも、主婦って大変だなぁと思う。

「それじゃ、よろしくね!」

 不安を感じながらも姉を見送ると、リビングでは早くも子どもの騒ぐ声が響いていた。

「おれは、しゅぎょう! しゅぎょうをする!」

 みぃくんがよくわからないことを言い出す。なんだよ、修行って。おまえはどこぞの少年漫画の主人公か。

「あたしはご本をよむ」

「おねーちゃん、プリンまだ?」

「もう少し後にしようね。そうだ、まぁちゃんはお絵描きでもする?」

 子どもたちは昼食を済ませたばかりらしいので、わたしはリビングの机に出してあったお絵描きセットを勧める。

「うん!」と、素直なまぁちゃんはお絵描きをはじめた。その黄色は、プリンの色かな。どんだけプリンが好きなんだよ。

 結局、三人はいっしょには遊ばず、自分のやりたいことを好き勝手はじめた。わたしは時々攻撃してくるみぃくんの「修行」に付き合って、普段使わない筋肉を酷使する。明日は筋肉痛だなぁ。

 いつの間にか、まぁちゃんがひぃちゃんの手元の絵本を見て、絵を描いている。たまごだ。またプリンかよ。

「それ、なぁに」

 わたしと「修行」をしていたみぃくんも、興味を示す。

「はんぷてぃだんぷてぃよ」

 ひぃちゃんが持ってきていたのは、マザーグースの絵本だったらしい。

「きめた! つぎのてきは、はんぷてぃだんぷてぃだ! おれがやっつけてやる」

「あら、かれはとってもよわいのよ。へいからおちただけで、われちゃうんだから」

「たまごがわれたら、プリンができるよ!」

 三者三様のあそびが、いつの間にか共通の話題になっている。

 無理にいっしょに遊ばせなくてよかった。それぞれが、それぞれの楽しみを持ち寄っても、案外うまくいくもんだな。多様性ってこういうことかも。

 おやつのプリンは、みんなで仲良く食べた。割れたハンプティダンプティのプリンかもってみんなで笑いあった。みんなが、まぁちゃんのおうちのプリンはおいしいって絶賛するから、まぁちゃんははにかんで、嬉しそう。そんな微笑ましい光景を見ていたら、なんとなく、子どもをダシにわたしを改心させようとした母も、それに勝手にプレッシャーを感じていたわたし自身のことも、ばからしくなった。

 他人は他人、自分は自分。子ども達をみならって、もっと自分らしく生きたっていいかもね。

[お題] 修行、マザーグース、プリン(ランダム三単語で一文)

@manatsu
文章の練習をしています