紙一重

manatsu
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 彼は子供のころから成績がよく、最終的にはT大を出て官僚コース、なんてのをやってのけたエリートだった。

 だが、彼は頭が良すぎたのだと思う。突然、日本の将来を悲観したと思ったら、貯まりに貯まった金をはたいて無人島を購入すると、そこに引きこもってしまった。それまでこなした地獄のような残業時間のせいで趣味にも打ち込めず、旅行にも行けず、彼の貯金額は相当なものになっていたらしい。

 彼の予言によると日本は近い未来にダメになって、食糧危機やら経済危機やらで苦しむことになるのだと。だから、早めに自活できる方法で、かつ、人から何かを奪われない場所を選んだ結果が、無人島だったらしい。

 持ち前の知識で無人島にインフラを整備した彼は、労働から解放され、不労所得で自由で孤独な生活を満喫しているようだった。資金の運用もしっかりとしている彼はなんと、無人島にいながら、「無人島系YouTuber」として活躍し、ちょっとした収入まで得ていた。無人島と言っても、東京近郊の島を選んだのは、インターネット環境のためだったらしい。

 なんというか、インターネットさえあれば、今やなんでもありの世界である。

 ブナ科の木がうっそうと茂る森を有した無人島では、どんぐりが大量に手に入る。つまり彼は自活の道として、どんぐりを食す暮らしを選んだわけだ。

『はぁい! 今日は、この大量のどんぐりを使ってパンをつくりたいと思いまぁス!』

 画面の向こうは晴天だ。緑に囲まれた広い敷地で無邪気に笑う彼は幸せそうだった。エリートとしてどんよりと濁った眼でスーツを着ていたころとは見違えた。

 私はと言えば、明日に供える時間だ。彼のYouTubeを閉じ、就寝のための準備をする。

 ここのところ、眠りが浅く、朝も怠い。明日の仕事のことを思うとまた憂鬱だが、稼いで暮らしていかねばならない。

 最近、生きることや、幸せとは何かについて考えるようになってきた。

 その日見た夢は、輝くような太陽と海に囲まれた、無人島の景色だった。

 

[お題]予言、無人島、どんぐり(ランダム三単語で一文)

@manatsu
文章の練習をしています