カメレオンさんから電話があった。
カメレオンさんは僕が先日部屋を紹介した宇宙人で、まさにカメレオンそっくりの容姿をした方だ。契約書類にある本当の名前はすごく長くて立派なものだが、地球人の僕には難しかった。何度も噛んでは言い直していたら、「カメレオンって呼んでくれていいですよ」と笑ってくれた。とてもいいお客様だ。
さて、カメレオンさんのはじめての地球での家探しを担当した僕は、「困ったことがあったら連絡してくださいね」と、社用携帯の番号を渡しておいた。宇宙人に部屋を貸すことに難色を示す大家さんに、「サポートは僕がしますから!」と啖呵を切ってしまったので。
なんで僕がそんなことをしたかというと、まぁ、なんというか、カメレオンさんが外国からこの国へやってきた僕の境遇と似ていて、放っておけなくなってしまったのだ。僕も、違う国からここへ来たので、当初は家探しに困った。そこで偶然出会った方に、親切に助けてもらった。いつか僕も誰かを助けられる日が来たら、この恩を返していこう、そう思っていた頃に出会ったのが、カメレオンさんだ。
カメレオンさんは知的な方で飲み込みも速かったが、異国での生活は難しい。実際に生活してみるとわからないことも出てくるだろうと踏んでいたが、なるほど早速お困りのようだ。
「もしもし、ワンさんですか」
「はいはい、ワンです。カメレオンさん、どうしました?」
「それがですね、ゴミ出しに困っておりまして」
「ああ、ゴミ出し、慣れないとややこしいですよね。何か、どの指定袋を使うか迷うものがありましたか」
「ええ、そうなんです。教えていただいた市役所のホームページのゴミ出しリストもチェックしたんですがね、該当するものがどうにも見つからなくって」
「先にリストをチェックしてくれたんですね。では、そこにないということは、かなりレアなケースみたいですね」
「ええ、ワンさんが親切に教えてくださったので、自分でなんとか調べられればと思ったのですが。いやはや……」
電話の向こうでカメレオンさんが恐縮している。まず、ちゃんと自分で調べてくれただけでも素晴らしいと僕は思う。こういう仕事をしていると、ろくに自分で調べもせずに、何でもこちらにやらせようとするお客様にだってよくあたる。
「大丈夫ですよ、ゴミ出しは誰しもがまず困ることですから。それで、何をゴミに出そうとされたんですか?」
「皮です」
「革? 革製品か何かですか?」
「いえ、革製品の革ではなくて、皮膚の方の漢字の『皮』です」
「ひふのかわ?」
カメレオンさんの言うことがよくわからず、僕は混乱した。カメレオンさんの身体に「皮膚」と呼べるものはあっただろか。それとも何か、僕の知らない宇宙用語なのだろうか。
「そうです、皮の方です。昨日がちょうど時期でして、いやはや、引っ越しのバタバタで失念しておりましてねぇ。ペロっとおっきいのが出てしまいまして。これはもう、一番近いゴミの日に出してしまわないと引っ越しの片づけもままならないと思った次第で」
「おっきい、かわ、ですか」
一体それって、なんだろう。僕がぐるぐると考えをめぐらせていると、向こうではっと息を飲む音が聞こえた。
「……そうか。人間は、脱皮しないんだった」
[お題]カメレオン、家、皮(ランダム三単語で一文)