「私は、あなたが好きだよ。あなたは?」
ミニスカートにブーツと、デートのための可愛い装いをした黒髪の彼女が、頬を赤らめながら彼に問う。
「え、あ、う、うん、俺も」
「ちゃんと好きって言って」
「……あ、す、す……言えないよ」
少し軽薄そうな茶髪の男は、へらりと笑ってごまかした。
「えー」
「あ、でもほらこれ」
コンビニの前でいちゃつくカップル。彼の方が封筒から白紙の紙を取り出した。コンビニの光に照らされたその紙に、文字が浮かび上がる。
『好きだよ』
「えへへ、私も」
彼女は照れ臭そうに、だが少し寂しそうにほほ笑む。
その光景は、過去に自分が見たものとそっくりで――
「ド阿呆ッ!」
アタシはカツカツとヒールを怒らせながら二人の間に割り込んで、白紙のカードを叩き落とす。
コンビニから出た途端、目の前に飛び込んできた光景に腹が立った。
「おまえ! 彼女がちゃんと言葉にしてくれたのに、そんなカードで済まそうってのか!」
彼を指さして非難する。そしてくるりと彼女と向き合った。
「あなた、そんなにちゃんとしてて可愛いんだから、もっといい男と付き合え! カードなんかで告白をごまかすようなちっせぇ男となんか、別れちまえ!」
彼女に説教する私の肩を、彼がつかむ。
「はぁ? あんた、なに勝手なこと言ってんだよ! 関係ないだろ」
「告白はろくにできないくせに、文句だけは一人前に言えるのかよ! 器のちっせぇ奴! どうせ他の女にもコンビニで売ってる400円の『好きだよ』カード渡してんだろうが!」
「えっ」
背後で驚く彼女の声が聞こえるが、ここはスルーだ。
「そんなことしてない!」
「だったら言えるだろうが! 彼女のこと、好きなの? それとも、その他大勢の女といっしょか?」
「……っ、好きだよ! 好きに決まってるだろうが!」
たまらず彼が悲鳴のように叫んだ。私の背後で彼女が息を飲む。
「なんだってぇ? 聞こえねーな!」
彼を煽って、私は一歩引く。
「好きだっ!」
私が下がったことで、彼の決死の告白をまともにくらった彼女。涙腺が崩壊して、くしゃくしゃの笑顔になる。
おろおろする彼がそっと彼女の肩に触れると、彼女はたまらず、といった様子で彼に飛びついた。
「お幸せにッッ!」
私は叫ぶと、ダッシュでその場を去った。
『好きだよ』カードで告白してくれた彼の浮気が発覚したのが、昨日。いや、浮気じゃなくてもっとひどかった。そのカードで複数の女の子に告白して、アタシは何人めかの、順位が低めの彼女だった。
白紙のカードなんて結局、文字が浮かび上がろうがなんだろうが、結局は白紙なんだ。
八つ当たりしてごめんね、見知らぬカップルさん。どうかあなたたちは、お幸せに。
[お題] 言えないよ、白紙、コンビニの光(ランダム三単語で一文)