「この世界があと1時間後に終わるとしたら、何をする?」
ファミリーレストランでだらだらとドリンクバーを消費しながら話をする。それがぼくらの週末の過ごし方だ。
「揚げ物を吐くまで食う」
「はあ? もっと有意義なことしなよ」
「有意義なことしたって意味なくね? だって世界は1時間で滅びるんだし」
ヒロトの言うことはもっともな気がするけど、ちょっと納得がいかない。
「おまえならどうするよ?」
「ぼくかぁ。ぼくは返却期限が過ぎてしまった本をこっそり返しに行くかな」
「意味ねぇ」
「やり残したことがないようにするためだよ」
「こっそりじゃなくて堂々と行け」
「世界があと1時間で終わるって時に、延滞者の相手なんてしてられないと思うよ」
「そもそも図書館って開いてるのか」
「開いてるんじゃないかなぁ。死ぬまで本を読んでたいって人がいるのかも」
「わっかんねえ」
「みんなヒロトみたいなタイプじゃないし」
「みんなナオキみたいなタイプでもないだろ」
二人で不毛な会話をして解散。そういう日々がずっと続くのだと思っていた。
「なんか話してたら揚げ物食いたくなってきた」
「揚げ物くらい世界の終わりじゃなくても食べられるじゃん」
笑いながらメニューを見て、バカみたいに揚げ物をたくさん頼んで、気持ち悪くなるまで食べた。くだらなくって、楽しい週末だった。
週明け。ぼくのスマホに連絡が来た。ヒロトが死んだって。ぼくと別れた後、家に着く直前に、酔っ払い運転の車に轢かれて即死だったって。あまりにあっけない別れに、ぼくは実感が持てずに、今でも嘘なんじゃないかって思ってる。お葬式はこれからだって。だからまだヒロトに会えていない。それまでは、彼が生きてる気がしてる。
生前どんな話をしていましたか? 最後、ヒロトはどんなことを言っていましたかと聞かれて、世界が終わる話をして、彼が世界が終わる前にしたいことを一緒にしたと話した。電話の向こうのお母さんは泣いていた。ヒロトの願いを叶えてくれてありがとうと言われた。友達でいてくれてありがとうって。彼はいつもぼくのことを楽しそうに家族に話していたらしい。
彼にとっては1時間後に終わる世界。ヒロトはぼくと過ごして幸せだっただろうか。
[お題]1時間後に終わる世界、返却期限、揚げ物