二人が席に着いて、猫山はメニューブックを開くがろくに見もせずに閉じてしまった。そのまま樒の手に渡される。
「何かよくわかんないや。適当に選んどいて」
「…そう言って、口に合わなくても機嫌損ねないでよ」
「そんなことあったっけ」
本心なのかはぐらかしているだけなのかわからない様子で肩を竦めた猫山の代わりに、樒が二人分を選んで店員にオーダーする。席に運ばれた料理を見、口をつけ、良いとも悪いとも言わず食べ続けるのを見て今日の選択は間違っていなかったようだと安堵した。
「食べ方綺麗だよね」
猫山に突拍子もなく言われれば、見られていたことに多少の決まりの悪さを覚えて口元をナプキンで拭った。
「…そうかしら…?猫山くんもきれいよ。食べ方だけじゃなくて顔立ちも髪も声m」
「外面ばっかりだね。内面は」
「……………………」
「押し黙るな」
「……そもそも人間の内面に対して綺麗だと思ったことがない。内面が綺麗だろうが汚かろうが猫山くんは猫山くんよ、私にはどちらでも。」
至極冷静に、何でも受け入れるわと言わんばかりの樒の態度に今度は彼の方が決まりの悪さを覚える方で、ふい、と目を逸らした。
「ああ、そう…。それで、樒の家ってマナーとか厳しかった?」
「綺麗に食べないと怒られた。命は大事だからって」
「…それってさ」
「……うん、私の本性は勘付かれてたから」
「だからこその教育方針か。樒は屠殺の仕事にでも就いたら万事解決なんじゃないかな」
フォークの先に刺さった肉、に注目させるようにゆらゆら動かして見せる。
「そうね……でも人のそれを見るともう動物には戻れないわ」
「いつか人間も食料になって屠殺対象になったらいいね」
「………それは…いいわね。次、目指す世界の形はそれが当たり前の世界にしましょう」
「僕にメリットないどころか樒に食べられそうで嫌だ」
「食べないわよ…。………わからないけど」
「だろうね」
(ところでこれ何の肉?)
(……たしか、牛)