カフェのお姉さんってなんで魅力的に見えるんでしょうか・・・。笑顔が素敵で、気さくに話しかけてくれて、プロフェッショナルな雰囲気もあり、プライベートは決して覗かせない。大袈裟に言えば沼ります。この謎はいつまで経っても解明されません。今回のお話は、恵比寿でカフェランチにハマったと言いつつ、実はカフェのお姉さんにハマっていたということを文章に残します。
ー 私が20代半ば恵比寿で仕事をしていた
広告の仕事をしていた頃、恵比寿でランチをとることが多かった。当時、店内でタバコが吸えるお店が数多く存在し、長く入り浸れるほど快適なカフェが恵比寿にはあった。ちょうどこの時期「夜カフェ」というブームが到来し、谷根千あたりで流行っていた。カフェではあるがお酒も飲めて軽食が食べられる。というのも、このカフェは夜までやっているので両面楽しめちゃう素敵なオアシスなのだ。そろそろ本題に入ろうか。
ある日、健康優良児がご贔屓にするリフレッシュサロンへ通っていた帰り、同じビルの1つ上の階にそのカフェはあった。アンティークっぽさもあり、観葉植物やソファーが印象的なオシャレなカフェで、そこまで混んでいない。
お店に入ると笑顔150億満点のお姉さんがそこにいた。
「いらっしゃいませ〜、お一人ですか〜?」とこの世の負のエネルギーを全て取り払う声と立ち振る舞いに動揺していたと思う。ここがオアシスか。
席に座り、タバコに火をつけてメニューを見ていると、お姉さんが話しかけてきた。「数量限定でハンバーグプレートがおすすめ、まだ今日あるんですよ〜!」と急に懐に入ってくるような感覚、タバコを急いで消し、今後喫煙者として生きることを辞めようとも思った。
「じゃあ、ハンバーグプレートお願いします」と伝えて、笑顔でキッチンへと消えていくお姉さん。もうときめきが止まらなくて、気付いたらタバコずっとしまって何も考えられなくなった。さっきサッパリしたばかったのに、あれ?何でどうして?とトリップ状態。
もちろんハンバーグプレートの味なんてどうでもよく、美味しくても不味くてもどうでも良かった。この時「ああ、これが一目惚れか」と初めての体験、一目惚れ童貞筆下ろしされました。
「ハンバーグプレートどうでしたか?美味しかった?」ともうフランクな感じで距離の詰め方エグい、でも嫌いじゃない。味なんてわからなかったけど「めちゃくちゃ美味しかったです!」と素直めに返答し、コーヒーを注文。しばらくタバコを吸って空間を楽しみました。
ー それから何でも恵比寿のカフェへ
カフェランチをしにいくと、そのお姉さんはいつも働いていた。そこから何度か通って軽い会話をするようになった。当然のように覚えてもらって、数量限定のお姉さんハンバーグプレートを注文するのが生き甲斐になってしまっていた。
注文し、タバコを吸って、軽くお話しして、また食べにきてを繰り返していく中である決意をした。
ー 連絡先を交換するしかない
花なんて買って行こうか?いや、それは気持ち悪すぎる。オシャレしていくか?アホか、現状最高なオシャレだ。そんなことをグルグルと自問自答し、自分を落ち着かせた。
いつものように階段を登り、風俗のお店の1つ上のカフェへ。もちろんいつものように笑顔150億満点お姉さんがお出迎え。慣れた手付きでソファーに案内され、メニューを見ながらタバコを吸っていた。今日に限ってお姉さんがクレバーに話しかけてきた。
「いつものでいいですか〜?」ついにわたしは、常連だけが使えるであろう噂の『いつものアレ』を使う権利をゲットしたのだ。メニューを見る必要もなく、目と目で通じ合ってハンバーグプレートをキッチンまでダイレクトでオーダーすることが可能になった。心の距離が一気に近くなったと言える。断言できる。脳内では御祭り騒ぎわっしょいで、もう連絡先交換成功率が100%になったと確信した。
今日はいつもと違い、店内全体がよく見える。なんだかいつもよりスローな時間が流れているとさえ感じた。ついに到達した、これがプロフェッショナルがよくいう『ゾーンにはいった』ってやつね。あー、はいはい、もうOKです、ええ。そんな余裕さえある今なら、LINEのIDを紙に書いておこうかと。しかし、ここで事件が起こった。
ー 「お待たせ〜いつものです!」
待ってました!と振り返ると、いつものハンバーグプレートの匂いが違っていた。よく見たらプレートの内容も違っていた。リニューアルしたのか、常連扱いになるとスペシャルメニューになるのか。
違う、これはカレープレートだ。
私は全く覚えてもらっていなかったのだ。
お姉さんは相変わらず笑顔150億満点だったが、私は必死に動揺を隠した。動揺しすぎて何も言えず、カレープレートを受け入れてしまった。ハンバーグプレートしか頼んだことないのに、むしろカレーは汗をかきすぎてしまうので外では避けていた。これは言った方いいかもとお姉さんを見たら、自慢げに親指を立てて「どんなもんじゃい!」みたいな無邪気な笑顔だった。
ー 私はカレープレートを食べた。一生懸命食べた。
何が連絡先の交換だ、うかれるな、1つも覚えられていないじゃんか。あれだけ好きだった気持ちを伝えることができないような状態、いや、これは遠回しに『お前のことは知らん、馴れ馴れしくすな、カレー食っとけ』というメッセージなのか。
カレーを食べながら汗をかき、テーブルに滴がこぼれ落ちた。お家へ帰ろう。
ー 後日談
私からしたら1:1の関係だけど、店員からすれば1:Nなんだよね。これだけは忘れてはいけない。そして、接客業だし笑顔でリピートしてくれるならそりゃやるよね。そういう基本的なところが私には欠けていた、考えうる想定を除外をしていた、とても疎かだった。ゆえにとても良い経験で20代半ばに出会った感謝で、これは今でも生きている。
変なトラップや勘違いする男子みたいにならないし、一定の冷静さを持って女性と対峙していると自覚がある。
カレープレート事件から私はもうこのお店に行っていない。