何はともあれHiGH&LOWである。
ご多分に漏れずわたしもすっかりHiGH&LOWにやられた。ドラマ版、劇場版、ライブ映像をひと通り観たわたしは後ろから鉄パイプや角材で殴られたような衝撃を受け、今ではEXILEの人たちのInstagramをフォローし、友人とその話をして夜を明かすくらいの、そこそこのファンになってしまった。
まさかEXILEの人たちが腹筋を出して踊る姿を見て「ありがてえ……仲間ってやつはよ……」としみじみするようになるとは、高校生時代のわたしに言っても信じないだろう。
まずEXILEの所属事務所の名前が最高だと思う。LDH。Love, Dream, Happiness の頭文字からとって、LDHだ。前世でどんな薬をキメたらそんな社名が思いつくんだ?
劇場版の第一作目が公開されてすぐくらいから周りの女たちから「お前はこの作品を確実に好きになるだろうから早く観ろ」と言われ続けていたのだが、EXILEに対する「なんとなくの苦手意識」のせいでなんとなく観る気が起きず、周りのオタクたちがざわついているのを、ただ横目で見ていた。わたしはそうはなるまい、という意地で観ないように回避していたふしもあると今なら思う。それは本当に、なんとなくで理由はない。なんとなく苦手だったのだ。
その後も幾度となくHiGH&LOWを観た友人たちから「まだ観てないの!?」と驚かれる場面があった。
「お前はロッキーのファンになる!絶対なる!」「ロッキーはマジでやばいから早く観ろよ!」「早くロッキーの女になれよ!!」「ロッキーの女!!」
と強く言われて、作品を観る前にそのロッキーさんとやらの画像を検索したことはあった。アッ!これは戻ってこれない予感がする!仕事が忙しい今ハマるとやばい!ロッキーの女になっちゃう!と見ないふりをして、劇場版第二作目が公開されるくらいの時期まで、HiGH&LOWと関わりを持たないで生きてきた。
しかしチャンスは突然訪れる。忙しさが祟り、体調を大きく崩したのだ。一週間ほど休みを手に入れたわたしは、ついにHiGH&LOWのドラマを観始めた。時間があるからね!仕方ないね!と自分に言い聞かせながら観ていたはずなのに、止まらなくなってしまった。ダンスが鬼のようにうまく、顔立ちの綺麗な人間の繰り出すアクションはこの世の何よりも美しい。話は明快で面白く、各チームのメインテーマの歌詞がこれ以上なく分かりやすく親切なところも好印象だ。
特にこの曲の完成度は半端ではない。「神からのご指名 また俺かよ」って、どんな人生を歩んできたらそんなことが言えるんだ?オタクの好きな「ちょっとやれやれって感じ」がうまく出ているのに、強い拳を持っている男の要素もちゃんとあって、絶妙だ。
そして何より、LDHのみんなが「本当に自分に似合うビジュアル」を手に入れたタイミングでこの作品が世に生まれたというのはかなり大きな意味を持つとわたしは思う。わたしが「なんとなく苦手」だったEXILEといえば、肌がいやに黒く、ヒゲが恐ろしく、眉毛がいかついイメージで、実際にキャストの昔の写真を見るにつけ、それはわたしの偏見ではなく、そのビジュアルでHiGH&LOWが撮られていたらわたしはそこまで好きになっていなかっただろう。当時のEXILEのことを友人が「あらびきソーセージ売り場みたい」と言っていたのだが、そのくらいみんな肌が黒かったのだ。その時のビジュアルが好きだという人ももちろんいるだろうし、それを否定しようとは思わないが、コブラはあの見た目じゃないとやっぱりダメだし、それはロッキーでも雨宮兄弟でも、誰でもそうだ。HiGH&LOWは然るべきタイミングでこの世に生を受けたのだ。わたしのようなオタクがHiGH&LOWに轢かれてぶちのめされてしまうのは必然だった。
オタクなので、好きな作品の好きなキャラが身につけていそうなファッションに手を出したくなる。わたしも「ぜってー俺もSWORD地区のみんながつけてるフレンチクルーラーみたいなピアス買お……」と街に繰り出し、アクセサリー屋に足を運んだ。「フープピアスがオススメ!」と書いてあるポップを発見し近寄ってみると、コブラさんの切り抜きが貼ってあって「だよな……分かるぜ、お前の気持ち……」と思った。二種類買った。あと革ジャンも買った。
かつてのオタクはEXILEが「なんとなく苦手」だったのだが、HiGH&LOWの前からLDHのファンだった人たちはわたしのようななんとなく似たような服装をしたいというフワッとした奴も温かく受け入れてくれる人が多い。
職場にも三代目J Soul Brothersの熱狂的なファンのギャルがいるのだが、わたしがHiGH&LOWを観てからEXILEを好きになったとにわか丸出しの発言をしても「そうやって好きになってくれてありがとう」と言って、頭を下げられてしまった。HIROさんの教育、行き届きすぎじゃない?
「だって、LDHッスからね」と彼女は言い、「まつげさんは誰推しなんですか?」と話を広げてさえくれた。やっさっし……Love……Dream……Happiness……
わたしが「ロッキーと、あと小林直己さんが演じてた源治が好きです」と言うと、彼女は「絶対ロッキー好きと思った!NAOKIもめっちゃ良かったですよね〜!やっぱまつげさん、芯の通った男が好きなんスね!分かりますわ」と言った。えっ……なんなの……?そんなに話したことないはずなのに、なんで分かるの……?あったけえ……こころがあったけえよ……一斗缶みてえだな…………
ちなみにそのギャルは相手と仲良くなった状態のことを「その人の(心の)部屋に入る」と表現し、めちゃくちゃ仲の良い同僚のことを「もう二階まで上がりましたわ」と話していたのだが、HiGH&LOWで出てきそうなセリフすぎて、わたしは何かにつけて思い出す。あったけえ……あったけえよ…………