高校生のころにオープンキャンパスで国文学の教授と話す機会があった。 教授とは近現代の詩について話をしたのだけど、私は特別くわしいわけではなくて、こんなえらい先生とひよっこが話をさせてもらえるなんていいのかなと申し訳ない気持ちになりつつ、とても楽しい時間を過ごした。 「朔太郎の詩は彩りが綺麗で好きです。ここに赤色が欲しいから詩の中で殺人を起こして血を流させたりしている感じがして、プロモーションビデオを観ているような気持ちになります。そこが好きです」 といったような生意気な事を高校生の私はセーラー服を身にまとって言ったのだけど、教授は目をパッと輝かせて「そうなんだよ、その通りなんだよ。プロモーションビデオ、まさしくその通りだよ。詩ってそういう美しさもあるんだ」と笑った。 教授は続けて言った。 「大学の先生をしていると、中学高校の教師の友達をどんどん失くしてくんだよね。まぁ僕だけかもしれないけど。 中学高校では、教科書に詩を載せてもそれを勉強させるんだよ。君もそういう授業を受けたよね?詩をただの文字の羅列として生徒たちに認識させる。そんなんじゃ詩を好きになりにくい。嫌いになってしまう子もいるかもしれない。 そんなんじゃいけないって僕が飲み会で言うだろ?そうしたら中学高校の教師たちからは失笑を買う。僕は食い下がりたくないから、そうするとみんな僕には付き合ってくれなくなるんだ」 私は幸いにも昔から詩集をよむのが好きだったから授業を受けて嫌いになることはなかったけど、確かに中学高校の国語の授業は退屈でつまらないことの方が多かった。 「君は小論文で受験するんだよね?」 「はい。その予定です」 「そう。楽しみにしてるよ。大学生になったらまた会おう」 とてもびっくりした。嬉しかった。「がんばります」と言って席を外した。 夏の暑い日のオープンキャンパスでの事だった。 帰りのバスに揺られながら教授に教わった「最近読んだ面白かった本」の名前を頭の中で復唱した。 本屋でその本を探したら8000円くらいしたので笑ってしまった。
派手歌人 京都在住の獅子座の女 あだ名はラブリー たわむれチャーミング
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