先日、目にヘルペスができたため病院へ足を運んだら、目にできたそれは額や頬のヘルペスがうつったものだと言われて驚いた話を書いた。
一度は薬に反応して赤く腫れ上がりグチャグチャボコボコになったものの、目も顔も綺麗に治り、医者からも「ヘルペスはもう大丈夫!」と言われ、無事に治療が終了した。その日は12月29日、病院が年末年始の休みに入る前の、年内最後の診療日だった。年が明けるまでに治ってよかった。そう思っていた。
大晦日のことだ。紅白を観ながら鍋をしようと準備をし始めた頃、目元の痒みが気になりだした。鏡を見ると、少し赤くなっている。医者に「それヘルペスや」と言われた時と同じような症状なので、わたしはうんざりとした。もう大丈夫と言われたのに、どうしてだろう。
しかし、もしまた同じ症状が出れば薬は続けて患部に塗布するようにと医者が言っていたことを思い出す。この時のわたしは、紅白が終わる頃には顔全体が真っ赤に腫れ上がって裂け、薬と体液でグショグショになってしまうとは思ってもみなかったので、素直にその通りにした。顔が焼けるように熱く、耐えられないほど痒くて痛いまま、2018年を迎えた。
新年早々、泣きながら寝た。あまりにも顔が痛く、そしてあまりにも惨めで、あまりにも不安だったからだ。頬からどろりどろりと垂れ落ちてくる自分の体液の不快さや、鋭く太い針を何百と束ねたもので突かれたような猛烈な痛みで目が覚めて、ろくに眠れなかった。元旦、鏡を見ると、はじめは目元だけだった赤みは、まぶたから唇にまで広がっており、医者にかかっていた時よりも悪化していた。悪化していたが、世の病院は三が日まで休診だ。救急に足を運んでも、皮膚の専門家がいるとは到底思えなかったし、それに、体にまで症状が及んでいればまだしも、顔にしか赤みや腫れは見られないのは以前と同じなので、これは様子を見るしかないなと諦めた。「病院 年中無休」で検索をかけても動物病院しかヒットしなかった。
年始には親戚の家に挨拶をしてまわるのが我が家の恒例行事だが、今回はわたし抜きで行ってもらうことにした。あまりにも酷い顔を親族に見せるのは嫌だったし、顔が痛すぎて何もできなかったし、何もしたくなかったのだ。文字通りの寝正月を過ごした。
あまりの痛さに「痛い!!痛い!!もう嫌!!」と絶叫して激怒したのは生まれて初めてだった。どうしてわたしばかりこんな目に遭うのだろうかと、不毛なことを考えるようになった頃、やっぱり薬が合わないのではと疑うようにもなった。
目にヘルペスができて治療を始めた頃も思ったが、医者に言われればそうなのだろうと素直に従って薬を塗り続け、一応「薬を塗るとあまりにも腫れるんですが大丈夫なんですかね」と質問をしても「ウイルスが薬に反応してるから仕方ない」と返事をされてしまえば、そういうものなのかと納得せざるを得なかった。しかし、しかしこんなにも薬を塗るたびに痛みが増し、鏡を見るたびに絶句するような顔になってしまうと、そういう考えが頭をよぎる。それはあまりにも本末転倒なのでなるべく考えたくなかったが、薬を塗るのもつらくて顔に触れなくなった頃、少し症状が落ち着いた。腫れや痛みのピークが過ぎたのか、それとも薬を塗るのをやめたからなのか。嫌な予感がしたが、それ以上は何も考えられなかった。
1月4日になった。ヘルペスを診てもらった病院は4日も休みだし、何よりセカンドオピニオンが必要だと思ったので、近くの総合病院が受付を開始すると同時に足を運んだら「今日は皮膚科はお休みです」と言われてしまった。なんでや!!!!皮膚は毎日ここにあって痛んでるのに、なんで皮膚科はお休みなんや!!!!しかもかかりつけの皮膚科のクリニックも休みだったので、わたしは膝から崩れ落ちるように絶望した。仕方ないので車でも少し時間のかかる距離にある別の総合病院へ向かった。
予約なしの診療は受付にも時間がかかるが、年始から皮膚科を受診する人は少ないらしく、すぐに診察室に呼ばれた。皮膚科の需要のことを思いながら、ドアを引いた。
わたしは一番症状が酷かった時の写真を医者に見せ、前は別の病院にかかっていたこと、一旦は良くなったがまた再発したこと、薬はこんなものを塗っていたことを説明した。
医者は「目にできてたのはヘルペスなんでしょうけど、顔のそれはヘルペスじゃないですね。顔からうつったものって言われたみたいですけど、今の感じを見るに、顔にできていたものはそもそも、ヘルペスじゃないですね」と言った。
ヘルペスじゃないですね。
ヘルペスじゃないですね?
意味が分からなかった。思わず喉が鳴った。「ヘルペスじゃないんですか?」と尋ねると医者は困ったような顔で頷いた。
「写真で見てもですか?」
わたしは聞いた。
「写真で見てもヘルペスじゃないね」
医者は言った。
シャシ・ンデミテモ・ヘルペ・スジャナイネ!!?!?!!!
なんやそれ!!!ブラジルの秘境でひっそり発展を遂げた文明!?!ヘルペスちゃうん!?!!ヘルペスちゃうんちゃうんちゃうん!?!!!なんなん!?!!は!?!え!?!!そもそも!?!!そもそもがそもそもそこなん!?!!!はあ!?!!!
わたしは頭の中がパニック状態になった。写真にうつる酷い自分の顔を見つめる。ストIIで負けたキャラの顔のようだと思う。ピンクの岩塩で彫った顔にも見える。よう、そこの苦しそうな数日前のわたし。あんた、ヘルペスじゃないんだってよ。ヘルペスじゃないなら、これは一体何なのだろう?
「たぶん新調した化粧品か何かにかぶれたんだと思いますよ。そこに変な抗ウイルス薬を塗ったりしたから肌が火傷みたいになって悪くなったんでしょう。ワセリンとステロイド、あとそんなに乾燥してたらかゆいでしょうから、アレルギーを抑える薬も出しておきます」
「あの、要は、ヘルペスじゃなくて、ただ肌が荒れて乾燥していただけってことですか?」
「そうですね。冬ですから乾燥しやすいですしね」
おい最初の医者!!!!!ただの乾燥じゃないんですかってわたしが聞いた時思いきりわたしのこと叱ったけどお前!!!!お前!!!!ただの!!!!!乾燥!!!!!やんけ!!!!!!!!!!!お前!!!!!!わたしの!!!!!!時間を返せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
処方されたワセリンを塗り、そこにステロイドを被せて数時間、本気で発狂するかと思ったほどの激烈な痛みと痒みは消え、肌はほぼ普通の状態になってしまって、わたしはいよいよ拍子抜けした。つらかったこの二週間ほどのあれこれがたった数時間で消え去ったのだ。最初の治療の時に「このままで大丈夫なのかな?」と思った時点で、皮膚科にかかっていればよかった。そもそも、顔がなんか痒いなという時点で皮膚科へ行けばよかった。それを放置して眼科へ行って誤診され大変な目に遭ったのはわたしのせいなのだ。その眼科は内科もやっているとはいえ、肌の専門家ではないのだし……と自分に言い聞かせながら、最初にかかった眼科のウェブサイトを眺める。すると、身に覚えがある歯医者の名前が記載してあった。治療の後、激痛に襲われたのでもう一度診てもらったら「この痛みはうちの治療のせいじゃないですね。そもそも虫歯になる方が悪いんですよね。仕方ないですよね」と言ってきた歯医者だった。その歯医者と眼科は提携をしているらしい。カーーーーッ!!!!
潰れろ!!!!!!!!!!!!!!!!