バスを降りて数秒歩いたところに前から気になっていた中華屋がある。仕事をさっさと済ませてさっさと帰っている途中、天気は晴れ、17時過ぎ、看板には「唐揚げビールセット1000円」の文字。店内を覗くと誰もいない。これは天がわたしに「飲め」と言っているとしか思えなかったので、ええいままよと店に飛び込んだ。厨房には若いお兄さんが一人いて、カタコトだがやわらかい日本語で椅子に座るように言ってくれた。そしてわたしが座るのを見届けてから2階にいる誰かを中国語で呼んだ。少ししてからお父さんっぽい白髪の男性が降りてきて、またカタコトの日本語でわたしに何を頼むか聞いてきた。ビールセットください。わたしがそう言うと、生ビールでいい?と確認されたので、それでお願いしますと答えた。料理はお父さんが担当らしく、息子さんはお皿を洗ったりお箸を並べたりしていた。
日が高いうちから飲むビールってどうしてこうもおいしいのか。泡が生クリームみたいにムッチリした、いい生ビールだった。生ビールをちまちま飲んでいるうちに鶏の唐揚げと手羽先の唐揚げ、そして揚げ春巻きが出てきた。唐揚げビールセットと言いながら春巻きがあるところが好きだな……と食べる前から思った。塩とカラシの入った、真ん中に仕切りのある小皿も渡される。春巻きとカラシを一緒に出してくれる中華屋はもう完全に当たりだろ!と思いつつ、中身の恐るべき熱さを想像して、まずは鶏の唐揚げから食べることにした。ニンニクや醤油に漬け込んで片栗粉をまぶして揚げられた鶏もも肉のうまいことうまいこと。誰が唐揚げを考えてくれたんや?感謝しかないねんけど。そう思いながらあっという間にひとつ食べたが、鶏の唐揚げはなんとふたつあるのでまだ楽しめるのだった。そしてビールに合う。最高。
手羽先の唐揚げはスパイスが静かに効いていて上品なのにすこし大胆な味でおいしかった。骨がスルンと取れたので気分がよい。そしてビールに合う。最高。
揚げ春巻きは久々に食べたというのもあっておいしさがひとしおだった。いまわたしが犬を飼ったら春巻きと名付けると思う。そのくらいおいしかった。この世で一番初めに春巻きにカラシをつけた人はセンスが良すぎるしそれと同時に少し変態だと思う。それくらい春巻きとカラシはおいしい。そしてビールに合う。最高。
もう少しなにか食べたいし、あしたも来たいな、と思ったが、もっと食べたいからこそここでやめておいて、少し間を置いてからまた来るというのが最もいいだろうと、そのセットだけを食べて飲んで、すぐにお会計をしてもらった。次来た時はさらにおいしく感じるだろう。そのために我慢だ。ケチな客と思われても構わない。次は山盛りのチャーハンを食べたいし、友達とも来たい。
お会計をしてもらったあと、ごちそうさまでした、おいしかったです、と言ったらお父さんが「わあ、ありがとうございます」と笑ってくれたのでちょっと嬉しかった。絶対また行く。