夏はとにかくよく乾く。のはなし - 2015年7月13日の日記 - Tumblrより

篠原あいり
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夏はとにかくよく乾く。道端の鳥を見てそう思った。鳥はチェーンソーでまっぷたつに割かれたかのように、綺麗に半身を失くしていた。胴体が途中でちぎれている鳥は何度か見たことがあるが、見事なまでに縦に割れた鳥を見るのは初めてだ。嘴も骨も羽根も、すべて等しく半分になっていた。 それを見て、鳥の死体だと理解するのに時間がかかった。顔と内臓が無いからだ。柔らかい部分は野良猫かカラスかに啄まれ、腐り、日光と風を受けてすっかり乾き、風化してしまったらしく、残った部位は触るまでもなくカラカラだった。死体というより、壊れた古時計のようで、嘴や骨はネジに見えた。かっこよかった。 夏はとにかくよく乾く。今日は特別暑くて、口の中の唾がなかなか出てこない。微かな水分を舌に溜めながら下に目を遣る。さっきの鳥の死体もそうだが、こんなに暑いといろんなものが乾いて死ぬしかなくなる。カエル、トカゲ、ミミズ、セミ。いろんな死体がそこら中にある。生きている間は「いる」と言われるのに、死んだ途端に「ある」と言われてしまうので生き物もなかなか可哀想な気がするが、死体は確かにあるのだ。可愛いクマバチも、アサガオの植わったプランターの近くで羽根をパリパリにさせて死体になっていた。虫の偉いところは、死んでも顔の表情が変わらないところだ。美しいまま死ねるのはすごいことだと思う。可愛い死体があった。写真を撮った。 夏はとにかくよく乾く。家に帰って、冷やしていたしそジュースを炭酸水で割って飲んだ。しそジュースは楽しいのでつい多く作ってしまう。赤じそを大量に買って、軽く洗い、水を張った大鍋に入れて、沸騰したらしそを取り出す。赤黒い汁が湯気をたたえて出来上がるので、好みで氷砂糖とレモン汁を加える。氷砂糖を溶かすと少し色が透き通り、レモン汁を足すと、夜明けの空のようにパッと明るさが増す。それを冷やして、炭酸水で割って一気に飲むと、喉から胃にかけて細い滝が流れるような感覚になる。体の暑さが一気にとれて、乾きも癒える。私は鳥やクマバチみたいにかっこよく可愛く死ねないだろうなと思う。

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派手歌人 京都在住の獅子座の女 あだ名はラブリー たわむれチャーミング vir.jp/matsugemoyasu