初潮が来たころに、母親に呼び出され、とても真剣な顔で「これからは、今まで以上に夜道に気をつけなあかんよ」と言われた。わたしが何故かと尋ねると、「もう子供産める体になったんや、あんたは」と、母は私の肩に手を置いて、強く、しかし少し小さな声でそう言った。その日は恐ろしくて眠れなかったが、泣くに泣けなかった。股間から血は流れるし、鈍痛もあるし、その上、妊娠ができるなんて。自分がモンスターか何かになったのではないかと思った。まだ小学生の時だった。 初めての恋人ができたのは高校生になってからで、性的な初体験はその時に済ませた。そういうことは多分、嫌いな方ではなくてむしろ好きなんだろうと思ったけど、何故か毎回のように「早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ」と心の中で唱えるのが癖になってしまった。これは何人かとそういうことを重ねてきた今でもたまにあって、人に言わせれば「良い体験」で上書きをしなければならないくらい不幸なことなのだそうだけど、他に「体験」を知らないので、多分まだ続く癖なんだろうと思う。 その癖が出てきた頃、女性が暴漢に襲われ、性的暴行を受けたというニュースをテレビで観た。今までもそういった報道は目にしてきたけど、高校生になって、恋人ができて、性的な体験をしてから観るそのニュースは何ともおぞましくて、小学生の頃に母から言われたあの恐ろしさがまたやって来るのを感じた。それまでは「性的」な暴行を受けた「女性」が自分にも当てはまる立場だと考えにくかったのに、「性的」な体験をした「女性」に自分がなった途端、そんなに恐ろしいことがあっていいのかと愕然としたのだった。「恋人」と「性的」なことをするだけでも早く終われ早く終われと呪文のように唱えているのに、好きでもない奴にそんなことをされたら、私はどうなってしまうのだろうとずっと考えた。今でもよく考える。知らない人にいきなり胸を触られたり、お尻を揉まれたり、耳を舐められたりする度に、自分はそういうことをされるためのモンスターなんじゃないかと思う。自分の、化け物としての力が、誰かしらを刺激して欲が生まれているんじゃないのか。それを発散するためにみんな私の体を使うんじゃないのか。一体このおぞましさは何なんだろう。早く終われ。
派手歌人 京都在住の獅子座の女 あだ名はラブリー たわむれチャーミング
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