2013年10月25日の日記 - Tumblrより

篠原あいり
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先生は自他ともに認めるヘビースモーカーで、一定時間タバコを吸わないと手が震えて汗が止まらなくなるのだと言う。いつも授業が終わると足早に研究室へ戻り、何よりも先にタバコを咥える。私と勉強会をしている最中にも「ちょっと吸ってもええかな?」と言った頃にはもう窓際に立っていて、先生が自分で設置した換気扇を回している。 私もタバコはたまに吸うし、人が喫煙しているところを見るのは好きなのでちっともかまわないが、もし「ダメです!絶対にダメ!」と断られたらどうするのだろう。たぶん先生は顔を青くして喫煙所まで走る。可哀想な先生。先生を見ると筒井康隆の「最後の喫煙者」を思い出す。どうかせめて最後から二番目の喫煙者でいてほしい。 先生の声は低いような高いような不思議な響きがとても特徴的なのだけど、いつもその声をパンと張って喋るので、講義を聞いていると気持ちがしゃんとしてくる。トランペットのようだと思う。が、タバコを吸うときだけは身体中の力が抜けるらしく、ゆるゆると喋る。ブルースハープをでたらめに吹いた時のような心地よさがある。私はそういう時の先生と話すのがとても好きだ。 先週のことだ。私の卒論のテーマについて先生と話し合い、ほどよく煮詰まってきた頃に先生は黙って席を立って黙ってタバコに火をつけた。コップのふちに口をつけてコーヒーをすするように自然な動きだった。いつも一言「ごめん」と断りを入れてからタバコを吸う先生が、黙ってタバコを吸った。決して嫌ではなかった。むしろ少し嬉しかった。それほど集中して私と話をしてくれていたのだと思った。先生は紫煙を吐き出しながら「ええ感じに煮詰まってきたね」と言った。私は「そうですね」と答えた。

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派手歌人 京都在住の獅子座の女 あだ名はラブリー たわむれチャーミング vir.jp/matsugemoyasu