トイプードルに命を狙われている。 何にでも相性というものはあるので、誰とでも心地よく接することができるというのは幻想に過ぎない。職場のどうしても話が噛み合わない人間のことを考えるだけで舌打ちが止まらなくなったり、良い人なんだけどなぜか仲良くなれる気がしなかったり。 ただこれは人間と人間だけの問題だとわたしは考えていたのだが、どうも犬と人間にも相性があるようなのだ。わたしはトイプードルにとことん嫌われる。 わたしは動物が好きで、特に猫や犬には目がないが、彼らがわたしを好いてくれるかは別だ。声をかけたり手を差し伸べてもこちらを見向きもしないやつは今まで何匹もいた。逆に、何もしないでも向こうから擦り寄ってくるようなのもいる。 しかし、トイプードルは無視するとかそんな生易しいものではない。断じて違う。彼らはわたしという個体を認識するや否や、その小さい身体全身を使って敵意をあらわにしてくる。 以前、家の近くの道を歩いていて、散歩中のトイプードルに遭遇した時のことだ。「おそと きれい さんぽ たのしい いい おてんき」といった感じで飼い主に連れられ歩いていたトイプードルが、わたしの横を通り過ぎる瞬間、突然「カチコミじゃーーーー!!!」とわたしのアキレス腱を噛もうとしたのだ。飼い主が「どうしたのプリンちゃん!!」と慌ててリードを引いたため噛まれずに済んだが、プリンちゃんの顔はどう控えめに言っても毛の生えた悪魔だった。ちっちゃくて可愛くてくりん☆としたのがトイプードルなんじゃないのか?何がトイだ。バカにしてんのか。アキレス腱食いちぎろうとする犬がプリンちゃんなわけないだろ。寺で修行を積んだ権田原最源(ごんだわら さいげん)とかじゃないと説明がつかないだろ。手練の格闘家のような判断力をもってして、瞬時にわたしの急所を捉えたあの犬がプリンちゃんなんて絶対におかしい。 それ以外にも「この子の吠えてる声初めて聞いた」と飼い主が言う横でわたしに向かって目を思いきり剥いて叫びまくるモモちゃん、わたしになついているふりをして飛びかかって頸動脈を食いちぎろうとしてきたスフレちゃんなど、数々のトイプードルから全力で嫌われてきた。何故かはわからない。個体と個体の全てには相性があるので、きっとトイプードルが気に入らない何かをわたしが発しているんだろうと思う。関係ないかもしれないが、以前うちで飼っていたフレンチブルドッグはトイプードルにだけやたら吠えられ嫌われていたので、我が家に何か問題があるのかもしれない。あるいは、全てのトイプードルの中身は筋骨隆々の破戒僧で、かわいい食べ物の名前をつけられた鬱憤を晴らすためにわたしのようなボーッとした人間を狙っているのかもしれない。わたしのためにも、どうかトイプードルには強くて逞しい名前をつけてほしい。愚地独歩とか。
派手歌人 京都在住の獅子座の女 あだ名はラブリー たわむれチャーミング
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