sweet silence

松下とも子
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薄曇りの木曜、お勤めの日。

バスに女子大の学生がぞろぞろ乗ってきて春を感じる。みんな淡い色のゆるっとした服を着ている。自分が今、大学生だったらどんな顔でどんな服を着て何に興味を持つのだろうと想像したが全く見当がつかなかった。

今日はいわゆる研修明けの一人立ちの日で、目まぐるしくあっという間に時間が過ぎた。自分が慌てる場面はだいたい予測がつくけれど案の定慌てた。それでも「来てもらって良かったです」と言われて安堵する。

この年齢になってやっと、できないことを諦められるようになった。できることにフォーカスできるようになった。今までそうしなかったのは、自分で自分を虐待していたのだと思う。

親が「人生とは、こういったもの」と歩かせようとした道が自分がどうかしてしまうほど合わなかった場合。それを覆すのには尋常でないパワーがいる。半世紀もそれに費やしてしまった。

しかしながら今や恨みはない。たまたまそんな場所に生まれた、それだけ。コンプレックスや原動力にすらしていない。ただ自分を通り過ぎて行った事象としてそれを眺めている。

人の期待に応えようとフル回転してしまうのは、人並みにならなきゃと必死だった頃のなごり。それも否定しない。きっとだんだん緩んでいくからね。一人になってほっとした、その沈黙の心地よさはがんばった証拠。お疲れ様、私。

@matsutomo
福岡で写真と文筆をやってます。 ★ほとりスタジオ www.hotori-std.com ★第54回九州芸術祭文学賞 佳作受賞kyubunkyo.jp/archives/1158 ©2024松下とも子