中年とお店

松下とも子
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阪急の地下でこんにちは!と声をかけられた。金城製菓の店員さんだった。年の頃は60代だろうか。この方、接客をするために生まれて来たような方で、お客さんの顔を本当によく覚えていらっしゃるのだ。金城製菓は吉塚のお菓子屋さんでどれも安くてすごく美味しい。柏餅は我が家の定番のおやつだ。買う時にこの方に当たると嬉しい。

嬉しいと言えば、薬院のあだち珈琲も若い店員さんが行き届いた接客をされている。そんなにしょっちゅうは行かないのに、「深煎りがお好きでしたよね」と覚えてくださっている。年始に訪れたら、目当ての福袋が売り切れと分かったお客さんが残念そうにしていた。すると、「ひとつグレードを落とした豆でしたら同じ内容でお作りできます。落ちる分、グラム数を増量いたします。」とさっと代替案を出していた。お客さんは満足して帰った。年始からがっかりさせたくないという気持ちが伝わってきた。

当たり前だけど、接客は最低限、人が好きな人がしてほしい。下手でもいい。ああ、人間がやっているなあと思える対応を見ると安心する。しかしこんな考え方はどんどん少数派になるのだろう。

「悲しいことだけど、もう自分たちは若い人と感覚が違うと思わなきゃいけない」パエリアのへげへげ(おこげ)を真剣につついているとまぐおさん(夫)が言った。場所は天神南のリッチモンドホテルのカフェ。ここはロイヤルが運営しているので実質ロイホである。最近の天神の店はお昼が二千円以上がザラだが、席数を増やしたいのか空間が詰め詰めで味は良くも悪くもなく、二千円のものを食べた気がしない。最近見つけたこのカフェは、安くはないが広々していて味もロイヤルで確実だし、落ち着く。こんな感覚もまさに初老だなと思う。

新天町のお蕎麦屋さん「飛び梅」や釜めしの「ビクトリア」、幼い頃はどうしてこんな店が人気なのだろうと思っていたが、そこにいくおばあちゃんたちの気持ちが痛いほど分かるようになってきた。しかし新天町も再開発で消えることが決まっている。

どこに行っても最年長、なことが増えた。職場の人はアーティストが多いから、同じような感覚で話していても通じると思っていた固有名詞などが通じなかった時にしまった、と思う。いつまでも下っ端気分でいたのになあ。とにかく、年下の人と話す時は余計なアドバイスをしゃしゃり出てしないように気を付けている。

食べ終わると店員さんがパエリアのお皿を下げにきて、「まあ!こんなにきれいに食べてくださって!ありがとうございます。」と言った。私は出汁の染みこんだ米に目がないのだ(炊き込みご飯とか)。いやしいようで少し恥ずかしかったが、「人間の接客だなあ」とやはり嬉しかった。

@matsutomo
福岡で写真と文筆をやってます。 ★ほとりスタジオ www.hotori-std.com ★第54回九州芸術祭文学賞 佳作受賞kyubunkyo.jp/archives/1158 ©2024松下とも子