春の泡

松下とも子
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朝から肩のリハビリ。じわじわとだが良くなってきている。担当の理学療法士さん、目がくりっとしてきびきびした若い女性。運動部系の、オオタニさんの奥様みたいな感じ。たのもしい。

雨の中バスに揺られて帰る。運転士さんが女性で、アナウンスが柔らかくていい感じ。ほっとする。こんなに違うのか~、と思う。不機嫌な運転士さん多いよね。おっさんってなんであんなに全般的に不機嫌かねえ。

博多駅の薬局でまぐおさん(夫)に頼まれた薬の受け取り。処方箋を出して待っているとスピッツの「チェリー」が流れてきた。もはや本質が分からなくなるくらい耳にした曲だが、こんな桜の散る雨の日に聴くとしみじみと良い。「悪魔のふりして切り裂いた歌を/春の風に舞う花びらに変えて」ってとこが特に好き。スピッツってガーリーな世界観だけど、お汁粉の塩みたいにちょっぴり毒が入ってるその塩梅が絶妙!なんだよな~。毒は中毒性がありますしね。ポップなものってわりとみんなそうだと思う。

しかし私は、コロナ禍以降スピッツを全く聴けなくなってしまった。周りで人がどんどん死んだし、猫も死んだし、失業したし、自分のリアリティが全く変わってしまったのだ。ファンタジーに心をたゆたわせることができなくなってしまった。スピッツは悪くない。私側の問題。でも今日はこうしていいなと思ったことだし、ちょっと元気が出てきたのかな。新しいアルバム、「ひみつスタジオ」聴いてみようかな。

そう、コロナ禍ではたくさんの人が死んだのです。みんな忘れているけれど。緊急事態宣言の時、桜がきれいだったなあ。人が誰もいなくて、世界の終わりみたいで。やっぱり今年も桜撮っておこう、とフィルムを装填し近所の公園へ。小学生の女の子ふたり、遊具にうまいこと傘を差し、かまくらみたいにしてお花見している。あまりのかわいらしさに声をかけて撮らせてもらう。ニコニコでピースサインされる。昔は、あっそれ絵的にやめて!と思ったけど今はいいじゃんと思う。かわいい笑顔。

帰宅してレタッチ作業。夕刻から雨がざんざんになってきた。夕飯は筍ご飯を炊こうかな、と思いながら泡のように消えていく春を感じている。

@matsutomo
福岡で写真と文筆をやってます。 ★ほとりスタジオ www.hotori-std.com ★第54回九州芸術祭文学賞 佳作受賞kyubunkyo.jp/archives/1158 ©2024松下とも子