某文豪アニメにおいて、私の最推しは芥川龍之介である。
とある経緯で、「芥川龍之介の蔵書から押し花が見つかった」というニュースを知った。フランスの小説の、ロマンチックな場面のページにその押し花が挟まっていたそうで、更にはその花言葉は「ほのかな恋」だという。なんて素敵だろうと思った。私はこういった類のものが大好きである。
ニュース記事には、そんな押し花が見られる芥川龍之介展という展覧会が開催されていると書かれていた。そんなことを知って、行かないわけにはいくまい。(展覧会は2024年6月8日まで開催されているので、興味がある方はぜひ行ってみてほしい)
あたたかな日差しと心地の良い風の中、私は件の展覧会が開催されている、日本近代文学館に足を運んだ。(余談だが、文学館に向かう道中、高級住宅街が広がっており、歩きながらとてもそわそわした)
展覧会では、たくさんの直筆原稿や蔵書、書画骨董などが展示されていた。お目当ての押し花を含め、一つ一つ時間をかけてじっくり見ることができた。
今回の展覧会の中で特に印象に残ったのは、実は押し花ではなく芥川の遺書だった。もともと私は書道の経験があるため、手書きの文字を見るのが好きである。それは、故人であってもその人の息づかいを感じられたり、その人の性格が字にとてもよく現れるためだ。芥川の場合、万年筆で書かれた原稿の文字は、どこかかわいさのある字であった。マス目の少し上の方に、気持ち小さめの文字が並んでおり、とてもかわいらしかった。また、筆で書かれた文字たちは繊細な空気を纏っており、あたかも雪の中に凛と佇む若い女性を見ているかのようであった。
そんな芥川の字が、遺書では少し変わっていた。中心のぐらつきが通常よりも大きくなり、インクは薄く、所々字がマス目をはみ出していた。自殺直前の芥川の心境が如実に表れており、胸が締め付けられる思いがした。
その直後に展示されていた久米正雄による弔辞の原稿がまた、胸に迫るものがあった。力強い字、毅然とした言葉の裏にある、友人の死を悲しむ気持ち。ひしひしと伝わってきた。久米はこの弔辞を、泣きながら途切れ途切れに読んだそうだ。
芥川の作品に対する評価は様々であるが、私が触れてきた(あくまでごく僅かな)ものの中で言えば、良い評価をしているものが少ない印象を受ける。私自身には、それらの批評を読んでも、作品の良し悪しはまだあまりわからない。しかし、苦しみ、もがきながらも、35年という年月を生き抜いた芥川龍之介という人物に、想いを馳せずにはいられない。そのことを再確認した一日だった。