日記。どこかにきちんと書いていたら忘れそうなので、整理せずにぐわっと書く。そのうちまとまったものを記事にするかもしれないし、しないかもしれない。
恋人の実家はドのつく田舎なのだけれど、当然のごとくでっかい田んぼも畑も持っている。今日は田植えの日。私は農業体験の気分でついていくことにした。
朝から汚れてもいい服装で車に乗る。私は今やパジャマ代わりにしている高校時代の体操服の下と、寝間着にしている彼シャツ()と恋人のボロいパーカーという出で立ちである。GW真っ只中なので高速には車が多い。しばらく走らせて実家に降り立つと、ひんやりとした風がぴゅうと首を掠めた。
さて、挨拶もそこそこに早速作業開始である。お恥ずかしいことに、私は準田舎程度の田舎出身の割に農作業にはほとんど手をつけたことがない。おばあちゃんちは小さな畑をやっていたけれど、幼い頃にちょっと土いじりをしたことがあるかなくらい。軽トラに乗り(これもまた初めて)、集落?共用の倉庫から苗をたんまり荷台に載せる。恋人の運転するミッション車には久しぶりに乗った。彼がものすごく楽しそうに軽トラを暴走させる。いや、さすがに行きは安全運転だったな、暴走してたのは荷物を返し終えた帰りだった。
家の田んぼに着き、苗を一つずつ降ろして田植機に載せやすいよう畦道に並べていく。ひと塊になった苗一つひとつは大した重さじゃないのだけれど、回数を重ねれば重ねるほどじわじわと身体に負担がくる。しかも9時近くになると日差しも強まり、おでこから汗がたらりと流れだした。とはいえ標高400mの山の中、通りゆく風は涼しく、真夏のように動けないほどの暑さにはならない。時折吹く涼しい風に、彼もおじいちゃんもお義母さん(まだ)も、みんなほうっと息をついていた。
やがてお義父さん(まだ)の運転する田植機が到着し、いよいよ田植えが始まる。あとはひたすら流れ作業。スタンバイさせていた苗たちを田植機によいしょよいしょと載せていき、田植機を見送ったあとは次の苗の準備をする。狭い畦道の中で数人が行き来するので、まあまあわちゃわちゃとする。だけど慣れてくると初心者の私にもできる作業が増えてきて、うまいこと役割分担しながら作業を進めることができるようになっていった。
一枚目の田んぼを終えて、次は家の前の二枚目へ。田植機の調子が悪かったので見に来てもらっている間、ダンゴムシやツバメの観察をしつつ休憩タイム。作業が再開してからは慣れたもので、するすると苗は植わっていく。90手前のおじいちゃんおばあちゃんも平気で作業に加わっているのだから恐ろしい。母方の祖父母にこの前会ってきたばかりだけれど、こっちのおじいちゃんおばあちゃんの方が年上なのによっぽど長生きしそうだ。おばあちゃんは私に何度も「かぁわいいねえ〜」と相好を崩してくれたが、そんなあなたこそとってもかわいいおばあちゃんです。
作業の合間にオタマジャクシやアメンボ、それからタガメ(!!)の観察をする。タガメは絶滅危惧種じゃなかったっけ? 普通に目の前に現れたので驚いた。こんなにまじまじと生き物の観察をしたのはひょっとすると幼稚園の頃以来なので、かえって新鮮な気持ちである。田舎、いいなと感慨に耽る。まあ、こういう安直な田舎上げが本物の田舎者を怒らせるのだけれど。
気がつけば日も高く昇り、暑さもピークを迎えていた。とはいえ気温は20℃そこそこのはずである。夏の太陽の訪れを感じつつ、それでも風はやはり冷たい。こういうのが春だ、ちょうどいい春なのだ。
田植機はぐるりと田んぼ一面を苗で埋め尽くして仕事を終えた。私たちも、余った苗や空箱を返しに軽トラに乗り込む。肉体労働の後の麦茶は格別にうまかった。セブンイレブンの麦茶だけど。その頃には服が泥で汚れているのも気にせず、平気でごたごたした倉庫に手を突っ込んでいけるようになっていた。町の子ならではの潔癖症が、少しは克服できただろうか。
恋人の暴走軽トラで実家に戻り、お義母さん手作りのおにぎりをもりもり食べて、ぐっすり昼寝する。ぐっすりしすぎて、恋人と一緒に3時間は爆睡した。途中足をつって目が覚めたのは運動不足の証拠だろう。
夕方起きてからは、縁側で涼んだり家の敷地内を散歩しながら恋人のガキンチョ時代の話を聞いてだはだは笑ったりして、たっぷり本を読んで、夕飯までご馳走になって家に帰った。いやはや、いい一日だった。天気がいい、空気もいい、人もいい。こんなに素晴らしい場所で育った恋人を、私は誇りに思いたくなるのです。