チョコロールを握りしめて歩く

皐月まう
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いったい何をしているんだろう。居場所もない私はたらたらと車を走らせ、さまよっている。所在ない、という言葉が胸に浮かび、そうだ所在ないのだ私は、と思いついた言葉を噛みしめた。かといって所在なき私はもちろん所在ないままで、現状は変わらない。

1年間暮らしたというのに、いざというときの避難場所を私は近くに見つけられていない。図書館とか、チェーン店のカフェだとか、どんなに長居しても気が引けないような場所が、すっと行ける範囲にない。あるにはあるけれどどこへ行くにも車が必要なので、「たいぎい」なのだ。

この日は逃げるように身支度をして、ひとまず隣の地域の図書館の駐車場までやってきた。もっと近所の図書館の方が行き慣れているけれど、駐車するだけでお金がかかるので用もないのに行くのはもったいない。

ところが来てみた図書館の駐車場はがらがらで、日曜の朝だからかと思ったけれど、まだ開館前だということを知る。再び私は所在なく、車の中で時間をつぶすことになる。

 

せっかく昨日スーパーでパンを買ったのに(焼きたてのパンが100円で、しかも美味しい)、家に置き忘れてきてしまった。朝から何も食べていないので、近くのコンビニまで歩いて向かう。

コンビニはちょうど仕入れ真っ最中で、パンのコーナーを覗いてもめぼしいものはありそうにない。店内を無意味に一周して、またパンコーナーに戻ってきて、何を血迷ったのか、ロールパンがチョコでごてごてにコーティングされたチョコロールを手に取った。

スマホと車の鍵だけをポケットに入れてきたのに、袋いりますか、と聞かれ反射的に「あ、大丈夫です」と口にしてしまう。直後に後悔しつつ、訂正するほどの重要性も感じないまま、チョコロールとおしぼりを握りしめて店を出る。

駐車場に戻ってくると、図書館を含めたこの施設の従業員たちが続々と出勤してきて駐車場がみるみる埋まってきた。なんとなく気まずい。だけど公共施設だし、ちゃんと図書館が開いたら利用するつもりなので座席に小さく収まりながらチョコロールを食べる。チョコは好きだけど、いっぺんに摂取しすぎたせいか徐々に胸焼けがしてきた。

 

うまくいかないときは、ずっとうまくいかない。渡らなくてもいい横断歩道を無駄に渡ってしまい無駄に信号に捕まったり、今日は寒いと聞いて厚着してきたのに車内は朝日でぐんぐん暑くなっていったり。うまく生きれない、生きれないなあ、と口の中でつぶやく。

最近は、かなりうまくいっていた。だけど些細なことをきっかけに一気に崩れ落ちてしまい、私がしばらく大丈夫だったのは大丈夫なように見せかけていただけだったんじゃないか、なんて思えてきてしまったほどだ。

本当はそんなことなくて、普段の私なら平気なことが途端に平気でなくなってしまっただけのことなのだろう。いや、でも、だめなときに平気じゃなくなるってことは、本来も平気ではないことになるのだろうか。考えだすときりがない。

ともあれだめになった私はとにかくだめなので、せめて図書館に借りた本を返しに来てみたというわけだ。

このだめさはもう少し続くかもしれない、あるいは始まったときみたいに、ひょんなことで元通りになるかもしれない。それは誰にも、私にもわからない。それでもたいぎい私と付き合っていくのは私自身なので、ひとまずは、元気なときに避難場所を探すところから始めないといけない。

@maumau_5
わたしの庭です note.com/maumau_5