土曜日、天気がいい。恋人は今週も仕事。ゆえに、今日は本気で何もしない日だ、ということを悟る。
玄関先で恋人を送り出したら朝ごはん代わりのお菓子を食べ、本を読む。西加奈子の『i アイ』。2月に読んだねるちゃんのエッセイ集でちらっと触れられていて、ちょうど図書館で見つけたので借りてきたもの。返却期限は明日だからと、いや、本当は半分あたりからぐんと面白くなって、一気に読み終えた。
本を読んだら今日という一日に満足してしまい、そこからは自堕落の穴へと落ちていく。
Twitter(私は意地でもそう呼び続ける)のタイムラインに、年の差カップルの彼女の愚痴が流れてきた。おすすめに出てきたので知らない人ではあるが、その年の差が私たちと全く同じだったので他人事とは思えず、軽くその人のツイート(と意地でも呼び以下略)を遡ってみる。
その人は私の3つ上だった。つまりお相手も私の恋人の3つ上になるわけだけれど、とてもその歳の男の人とは思えないほどお相手はしょーもない男だった。
彼女が真面目に、二人の将来を考えてLINEのメッセージを送っているのに(文字数もそこそこあった)、返事は「り🫡」だけ。ちなみによくある喧嘩の一方的長文LINEではなく、ただただ彼女は彼と話し合いがしたいようであった。なのに、りて。りはないやろ。
彼は結婚願望のない人だった。しかし彼女は結婚したい。彼女側から同棲や結婚の話を持ちかけても毎回かわされてしまう。じゃあ、いい歳して妙齢の彼女とどうして3年も付き合ってるの?彼女の貴重な20代を無駄にする気ですか??
はじめは彼氏に対する怒りが芽生えた。次に、これはもうさっさと見切りつけようや、と彼女に言いたくなった。なんならリプ欄や引用リプも満場一致で「別れろ」だ。だけど彼女は「好きだから別れられない」と言う。
ああ、このパターンか、と思った。わかるわかる、わかるよその気持ち。せっかく別れても次なんか見つかる気がしないって思うよね、わかる。でもあなた26なのよ、その歳でしょーもない男にズルズル時間使ってるってことはこの先……と、顔も名前も知らない、なんなら年上の女性の未来にため息が出てしまった。
その人に比べれば短い人生だけれど、私は他にも似たような女性を何人も見てきた。彼氏から別れを切り出されたのに無理やり引き止めた人や、長期間元彼との復縁に精を出している人(世の中には復縁垢という界隈もあるらしい)(男性側の愛想が一旦尽きたら浮気されても何も文句言えないと思う)、身体の関係だけで相手に執着してしまう人──まあ、中には男がしょーもなくないパターンもあるけれど、なんでこう、女ってみっともなく一人の男に特別性を感じてしまうんだろうなと不思議になる。
というのも、私自身がそうだったからだ。私はしょーもない男に約3年の時間を費やし、結局しょーもないまま終わった。得られたものといえば、会話ができない、話し合いをしようとしない男は基本的にクソだ、という学びくらいだろうか。あと自分よりも頭が悪い男と付き合ってはいけないってこと。
あの3年間に、私は何も意味を見出していない。無味乾燥の虚無の時間。だって元彼との終わりは付き合って3ヶ月目に喧嘩したときから見えていたのに、そこからズルズルと執着してしまったのは私が馬鹿で愚かだったせいだとしか思っていないから。
初めての彼氏だったから余計に、この人と別れたら次がないと思い込んでいた。別れてみたらあっさり気づいた。全然、そんなことはなかった。
結局、私の貴重な10代と20代の一部を無駄にしてしまったな、としか思えない。そう、女の若さは貴重なのだ。ただでさえ女の賞味期限は短い。なのにしょーもない男とのしょーもない時間にいつまでも縋りついている女を見ると、老婆心というか、なんならお節介ばあさんが顔を出してしまいそうになるのだ。
しょーもない男に費やした分、女もしょーもない女に成り下がる。私は無駄な執着のせいで自分の価値を下げてしまったことを、強く後悔している。私以外のうら若き女の子たちには、そんな目には遭ってほしくないのだ。
私は全世界の女の子たちが幸せになることを望んでいる。これは本当だ。だから今すぐに自分の価値を下げるそのしょーもないやつを手放せ、お願いだから、と、画面の向こうに念を送ってしまう。わざわざコメントしに行かないだけ、私はまだお節介ばあさんにはならずに済んでいる。
SNSでこういうしょーもない男を目にするたび、私は私の恋人を誇りに思う。ただ、私自身もしょーもない男に当たっていなかったらそのありがたみもわからなかったと思うので、しょーもない男と過ごす時間のメリットといえばそのくらいかもしれない。
本当に、それ以外のメリットはないので、しょーもね、と思った瞬間に手放すことをおすすめします。好きだから別れられない、なんて気持ちは別れて半年でも経てば見事に霧散して、二度と思い出せなくなります。恋なんてそんなものです。あとはそいつを煮るなり焼くなり話のネタにするなり、好きにしてやればいいのです。
しょーもない。本当にしょーもない時間を過ごしてしまった。こんなものを見るくらいなら恋人のちんこのこと考えた方がましだわ、と私はやさぐれた。そんな土曜日。外はまだ明るい。