関東方面からぞくぞくと雪情報が流れてきている。みなさまどうかお気をつけて。などと考えていたら50年ほど前のことを思い出した。
高校2年の3学期。期末テストも終わった頃だったと思うが、クラスメートが突然、雪と山と海の見えるところに行きたいからつきあってほしい、と言い出した。仲は良かったが、それほど親しい友人でもなかったのでちょっと驚いたが、誘ってもらうのはうれしいので快諾。とにかく日本海側へ行けばいいだろうと適当に目星をつけ、彼女のお父さんが切符を手配してくださって二人で福井県の三方五湖へ向かった。何時間かかったのか列車内のことはまったく覚えていないのだが、到着した先には確かに海があり、山は冠雪していた。
雪と山と海があるー! と彼女ははしゃぎ、砂浜で遊んでいると近所の小さい兄妹がやってきて少し一緒に遊び写真を撮った。その子たちはいったん家に帰りお金とメモを持って戻ってきた。親から言伝られたらしかった。友人と私は笑って、お金はいらないからあとで写真送るね、といい、お兄ちゃんのほうは困ったような顔をしながらも帰っていった。しばらくして、地元の漁師さんらしき人と出会った。この寒いときに女の子二人でなにしにきたんだ、というようなことを尋ねられ、雪と山と海を見に来たのだと話したら、だったら舟に乗せてあげようと言われて喜んでついていった。手漕ぎの小さな舟に乗せられどれくらいの間だったかわからないけれど、誰も何も喋らない静かな時間が穏やかな水面に流れていた。ゆらゆら揺れる波と遠くの山と雪を眺めながらぼんやりと過ごしたときを今は一枚の写真のように思い出す。
たぶん、つきあっていた彼氏となにかあったのだろうという察しはついていたけれど、友人はなにも話さなかったし私も尋ねなかった。岸に戻って舟をおリ漁師さんにお礼を言って別れたあとで二人で、私らなんか危なそうに見えたんかな? などと話したことと、お昼に喫茶店のようなところでカレーライスを食べたことは覚えているが、あとは子どもたちと写真を撮ったこと、舟に乗せてもらったこと、舟から見えた風景しか覚えていない。おみやげも買ったのかどうか。親には行き先も伝えていたから買ったのかな。
不思議な小旅行だった。人生ではじめて完全に自力ではないけれど保護者無しで遠出した体験だった。旅先での出会いというものをおもしろいと思ったのもこれがはじめてだったかもしれない。
そして冷えたのか帰ってから下痢をしたことも覚えている。