義母のはなし

maya9
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義母が亡くなる直前のこと。

その年のお正月にはそこそこ元気があった義母は、正月が明けてしばらくしてから突然生きる気力を失ってしまい「飲んだら死ねる赤い丸薬をください」と通院時に医師に言うようになっていた。たぶんこの赤い丸薬というのは、昔の大河ドラマの『草燃える』で北条政子の娘が医者に処方された毒薬が頭にあったのだと思われる。「何言ってるの、もうちょっと頑張ろうよ」と毎回医師に諭されて義母はしょんぼりしていた。

いよいよ具合が悪くなって入院して、もういつ亡くなってもおかしくないので個室に移動になりますと言われてから、私は毎日義母の病室に通っていた。看護師さんたちからは「こんなに毎日家族が、特にお嫁さんが来るのは珍しいですよ。仲良かったんですね」と言われていたのだが、特に仲がよかったわけではなく、ただ義母は義父の家族からあまりに酷い扱いを受けていたので(実際に義伯母も義叔父も見舞いにすらこなかったし、早くあの世に行けばいいとまで言っていた)、最期は仕事で忙しい義父や息子たちに代わり、私が責任を持って見送りますし、葬式も私が出してやる、という決意のもとでせっせと病院に行っていたのだった。

大半の時間、義母は苦しそうに息をして寝ていたけれど、時々目を覚ましては私に気をつかい、「ご飯は食べたの」とか「もう遅いから帰りなさい」とか「私の保険のお金がおりたら全部あなたがもらいなさい」などと言っては、うつらうつらとしていた。

そんなある晩、個室のソファでぼんやりしていた私が視線を感じてふと顔を上げると、義母が目を開けてじいっとこちらを見ていた。そして、自分の顔を指さしながら突然大きな声で

「わたし、死んだ!?」

と聞いてきた。

「いや、死んでないよ」と答えると、ハァ〜〜と驚くほど深いため息をついているので、「え、もしかして死んで、いま天国にいると思ったの?」と聞くと「うん」と言う。「あらら、天国じゃなくてがっかりしちゃった??」と尋ねたら、心底残念という表情で「うん…」と答えて目を閉じていた。

看護師さんにこのことを伝えたら、えええ〜? そっか〜そんなにがっかりしちゃったのか〜と半分泣き笑いみたいになっていた。数日後、義母は安らかに今度こそ本当に眠りについたけれど、今でも義母の最期というと、あの「わたし、死んだ!?」と言った時の目をキラキラさせていた顔を思い出す。

@maya9
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