『汀の研究室』を読み進む。面白そうな実験作が並んでいるが、とりあえず知っている人の作品だけ。こういう読み方は自分でも好きじゃないが、まあ仕方ない。
切明川準さん「十字路の悪魔」。小説の一部に押韻が使われている。
日本語に押韻は馴染まない、と何となく思いがちだ。現代詩も私が読んだ限りでは使ってない。ラップぐらいだろうか。あれはリズムがあるので押韻が合う。
といっても、江戸期の文化人は漢詩を嗜んだから押韻を当然のこととして受け入れている。漱石は初期にテニスンの物語詩を踏まえた作品を書いているし、鷗外も海外詩に詳しい。今馴染まない気がするのは、学校で習ってこなかったせいだろう。切明川さんはラップから押韻に興味を持ったのだろうか。
押韻が全編で使われているわけではないが、使われている部分では語り手の強い感情が伝わってきた。もっと爆発するような表現があってもよかったけど、果敢な挑戦だと思う。
仁矢田美弥さん「美しく一日」。仁矢田さんらしく透明な美しさと恐ろしさ、残酷さを同時に感じる作品だった。カンディンスキーの絵にインスパイアされた小説らしい。私も元絵を見たが、物語など全く浮かばなかった。カンディンスキーの絵は好きだが「刺激的だ」「美しい」と思うだけだ。そこから何にもつながらない。美術系のセンスがないので仕方ないが…。音楽ならクラシックのように歌詞がなくても小説を作れそうな気がする。人それぞれだ。