帝国ホテルのアフタヌーンティーに行った。文学フリマのお疲れ様会のつもりだ。創作日記ではないので詳しくは書かないが、よく頑張ったよ、私。得たものも多い(とても多い)けど苦労も多かった。
自分をいたわるという言葉を聞くようになったのはいつ頃だろう。そんなに古い話ではない。いい言葉だと思う。本気で自分をいたわれるのは自分だけ。私は何をやっても「これぐらいやるのが当たり前のこと」と見なして、淡々と流してきた。何も必要以上にやった、やったと得意顔をする必要はないが、自分を認めて時にはいたわってやりたい。

読了本。釈迦堂入史さんの「凸凹セクシュアリティ」。釈迦堂さんには文フリ前のスペースに誘っていただくなどした。同じアンソロジーに寄稿もして不穏みのある好きな作風だったので、本を購入してみた。読み始めてすぐ語り口の熱量に惹きつけられた。ありのままの自分を丸ごと受け入れたいと願う一途な気持ちと、そんな自分を持て余してしまう気持ち。彼女の抱える焦燥感や哀しみの情がひしひしと伝わってきた。彼女が出会う梢の描写もいい。主人公の小梅には嵐のような圧倒的な存在感があるが、梢にはよるべなく消えてしまいそうな儚さがある。そんな二人の物語。自分に喝を入れたくなるような、活力に満ちた小説だった。
相沢朋美さん『世界3カ国恥かき旅』。相沢さんともアンソロジーでご一緒した。各地の文学フリマやZINEフェスに出店なさっていて「イベントで本を売る」ことに力を注いでいる方だ。文フリに出店するといっても、創作するのと本を作ることだけに意識がいっている人も少なくない。でもそれだけでいいなら、何もお金を出して文フリに出る必要もない。本を作って自宅に飾っておけばいいのだ。相沢さんは若い方だが、私たちが見習うべき点は多い。
この本はニューヨークとトロント、ソウルの三都市の訪問記だ。何かと粗忽な私から見ると「恥かき旅」という感じはしなかったが、相沢さんのチャレンジ精神とパワフルな性格が伝わってきた。海外旅行に二の足を踏んでいる若い人に読んでもらいたい本だった。
遠藤敦子(相沢さんの別名義)『ケセラセラ』。キッキンカーが起点になった人と人の巡り会いの物語。中にはヤな奴もいるが、人を信じる気持ちになれる。
椎名夕さん「スキップはできない」(アンソロジー『Scrap &Build』収録)。若い女性の小さな心の揺れを繊細に描いた短編小説だった。noteで椎名さんの小説を読んだことがあり、とても好みの作風だったのでこの小説も楽しみにしていた。二つの小説の主人公は背景が違うが、性格などはそのまま受け継がれている気がする。頭も良いし、それなりにうまく世間を渡っていけるタイプなのだけど、主人公の中には小さな違和感ーー社会に対してと自分に対して両方向の違和感があるようだ。その違和感が時にあふれて言葉となり、自省をうながす。そのあたりの描写が素晴らしいし、彼女と両親や恋人のつながりもとてもリアルだった。文フリで出会った短編小説の中でも特に好きな作品の一つだ。
こがわゆうじろうさん「寿司、鶏、風呂、寝ろ」(Scrap &Build収録)。非常に理知的で明晰な文章だった。才気煥発なあまり観念論に始終してしまいがちな青年の描写がとても良かった。そんな時代の「忘れられない味」があれというのも楽しい。私は主人公の母親世代だが、同世代に彼のような人がいるんだよな……。大学生なら微笑ましいことだし、そんな時期もあっていい(むしろあるべき)だが、この年でここまで地に足がついていなくてよく生きてきたなと思ってしまう。私自身、若い頃は分野は違うがわかったつもりで偉そうなことを語っていたので、人のことは言えないが。芸術の場合結果が出るので嫌でも目が覚める時が来そうだが、私がやっていたのは日本史なのでどこまでも観念的になれた。研究者や教員の道を選んだ人は一生観念的なままかもしれない。
ありがたいことに、才能のある若い人の作品に出会うのが嬉しい。嫉妬もないし、焦りもない。これもさ、まわりにいるんですよ、そういう負の感情に囚われた人が。私も負の感情が多い方だが、人と自分を比べるという感覚に乏しい(全くないとは言わないが)のでそこは助かっている。
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Xで見かける政治的発言は苦手だが、自分のTLに限ってはむしろ心地良い。読書垢や創作垢の人たちは私と似た意見というか私よりラディカルな人たちも多いが、「みんな自分の持ち場で頑張っているんだな」と心の中で応援している。が、一人どうにも……政治的というよりは浅はかな意見を吐く人がいる。いやあなたそのこと全然わかってないのに、偉そうに切り捨てているのよねと言いたくなる。あまりに腹が立ったので一時期ミュートしていたがよくいいねをくれるし、普段は良い人なので(だから尚更悪いという見方もあるが)ミュートを外した。自分のアカウントではなく文フリ用のサークルアカウントなので、自分の感情で動くのは良くないという自覚もあったのだ。ところが、その人がまた不快なことをポストした。腹が立ったのでまたミュート(ブロックやリムーブをする勇気のないヘタレ)。
すると、上に感想を書いた人が同じポストに腹を立ててリムーブしたと書いていた。これが反対に「同意見です!」などとリプしていたら、感想を消したくなっただろう。職業作家と違い身近な人たちなので、作品と作者を切り離すのは難しい。