十二月五日(金)

mayo_fujita
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公開:2025/12/5

 北杜夫『楡家の人びと』第二部(新潮文庫)を読み終えた。昭和初期〜真珠湾攻撃まで。よくも悪くもずば抜けた人だった基一郎亡き後の楡家の人たちを書くパート。日中戦争が始まり、品不足や風紀の引き締めなどもあるが、人びとの暮らしは粛々と続く。戦争は突然始まるわけではない。小さな変化を見過ごしてはいけないのだとわかる。一方で、暮らしに追われて自分の小さな日常に埋没するうちに変化を見過ごしてしまうというのも、そうだった人たちをかばうわけではないが実際にあるのだろう。

 作者の父親である斎藤茂吉の戦争加担について、楡徹吉という父がモデルになった人物と斎藤茂吉の実名、両方で書いている。ドイツに留学したためにドイツ贔屓だったというのは事実だろう。現代でも少し前までは日本人とドイツ人には勤勉緻密など似た気質があると見られていたと思う。医学分野ではドイツの影響が大きかったというのもある。といっても、ミュンヘン一揆を間近に見た上でナチスをそれなりに評価していたのだから、茂吉はそもそもそういう人だったのだ。そのことと、医者になるはずの長男を兵隊に取られたくないと思う気持ちは両立する。

@mayo_fujita
読書日記を書いています。小説メインで色々読みます。古い小説と海外文学、ZINEや同人誌など。