十二月九日(火)

mayo_fujita
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公開:2025/12/9

 イーディス・ウォートン『イーサン・フロム』(宮澤優樹訳・白水Uブックス)を読み終えた。ウォートンの小説は数年前に読んだ『無垢の時代』以来。

 『無垢の時代』が映画『エイジ・オブ・イノセント』の原作だったと今回初めて知った。映画は観ていないが、小説は旧訳で読んだはず。全く記憶にない。若い頃は二人の女性の間で揺れ動く男の話に興味が持てなかったようだ。

 『イーサン・フロム』も枠組みは同じ。二人の女と一人の男。『嵐が丘』のように後から振り返る構成なので、読者はイーサンがこの後どうなるか薄々理解しながら彼の若き日の物語を読むことになる。『無垢の時代』はニューヨークの社交界が舞台だったが、こちらはニューイングランドの小さな町が舞台。舞台は違っても、家族や社会が人を縛るのは同じだ。逃げればいいのにとはたからは言えるが、しがらみにとらわれた当事者には不可能なことなのだ。イーサンにとってはこの選択しかなかったのだと思わせる迫力ある描写だった。そしてカタストロフ。しかし、その大破局さえ必然的であり、それを受け入れてイーサンは生きていくのだと感じた。幸せとか不幸といった感情を超越したような存在。

 私はしがらみを断ち切って逃げ出した者だが、そうできなかった人のことは理解できるし、何かが違えば自分も彼らの側にいたのだと感じる。そういう意味で、百年も前の小説なのに他人事には思えない作品だった。

海外文学100冊マラソン 1/100

 

@mayo_fujita
読書日記を書いています。小説メインで色々読みます。古い小説と海外文学、ZINEや同人誌など。