十二月十二日(金)

mayo_fujita
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公開:2025/12/12

 文学フリマで購入した本を読み進める。『別冊蝉文学』。蝉ホラーのアンソロジー。蝉ってよく見れば気持ち悪いし、死骸も見かけるのでホラー向きかも。子どもの頃は蝉を素手で触ったこともあった気がするが、今思うと気持ち悪い。周囲に木がないのに、ベランダに死骸が落ちているのも不気味だ。カサカサ乾いたのが秋頃にどこかから飛んでくることもある。

 森山ねこたろうさんの「脆い抜け殻」は仲の良い女子二人なんだけど波長が合わない時があって、一人がテリトリーに入り込み過ぎ、一人がそれを交わそうとして望む以上に距離ができてしまったり。そういう空気感を思い出した。小説ではそこにセミニンゲンがかかわってきてホラーになるのだけど。水飼心さんの「二二一年に一度は起こりそうなこと」は最初から不穏で、家族の会話や食事風景も不穏で読みながら神経が尖る。蝉の音からお母さんの叫び声に切り替わるあたりは映像で観てみたい。

 三紡灯文舎さんの『東京STATION×焼鳥NIGHT』『22時の肖像、東京駅の片隅で〜八重洲Side』二つのアンソロジーも読んだ。三紡灯文舎は出雲巴さん鈴木桂さん橘志津子さん三人の文芸サークルだ(各本に三人の作者が一篇ずつ短編小説を載せている)。このサークルは今年の春頃にXでフォローさせていただいた。文フリに出店するとのことなので当然5月の文学フリマ東京40のことだと思ったら、秋の41に出ると知り準備に時間をかけていらっしゃるんだなと驚いた。確か5月の時点で作品は仕上がっていたと思う。私なら待てずにさっさと出店しただろう。

 時間をかけただけのことはあるのだが。度の高さでは、文フリで訪問したサークルの中でもずば抜けていると思う。一人サークルなら驚かないが、複数人でここまでできたのはすごい。自分もアンソロジーを作っているので、大変さがよくわかる。本だけでなくブースの設営や配布物までとにかく作り込まれていた。アンソロジーも1冊は東京駅の丸の内側(新丸ビル5階)、もう1冊は東京駅内のハンバーガーショップやカフェが舞台ーーごく狭い場所で完結する上に、時間的にも12月1日の数時間だけを扱っている。それなのに、奥行きが深い。登場人物の背景が様々でそれぞれに興味深い物語を背負っているというのもあるだろう。また、作者それぞれに作風が違うのに、場所と時間を同じくするだけでなく、他の作品の登場人物がカメオ出演したり作者たちも同じ舞台にいたり……といった工夫によるところもあるだろう。東京住まいの私にとって馴染みの場所ゆえ作品世界に入りやすいのかもしれないが、他方出身者が東京駅を訪れたという設定の話もあるので、東京在住者以外にも訴えかける本だと思う。

 自分もこんなアンソロジーを使ってみたいものだ。あまりにも作風が違いすぎたり、作家性が強くてコラボ的なことができなかったりすると成り立たないアンソロジーなので、参加者のチョイスが難しいとは思うが(作家性が強いのは三紡灯文舎のお三方もそうだが、柔軟な姿勢があるのだと思う。プロならいざ知らずアマチュア物書きには大事な素質だとしみじみ思う)。

@mayo_fujita
読書日記を書いています。小説メインで色々読みます。古い小説と海外文学、ZINEや同人誌など。