十二月三日(水)

mayo_fujita
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公開:2025/12/3

 小雨の寒い日。心も沈みがちで、文フリの出店をやめようかと考えてしまう。自分の創作を読まれたいという欲望がそこまで強くないので、そんな風に思うのかもしれない。文フリ本を読むのは楽しいが、自分が出店しなくても読める(買える)からね。むしろ、店番をしなければならないので本を買う時間が削がれる。

 文フリ本は順調に読み進めているが、メインで読むはずの安岡章太郎の短編がはかどらない。それなりに面白いし、昭和期の小説に時々感じる古色蒼然としたものとも無縁だ。が、大人になれない青年の話に今は興味が向かないのだと思う。今というか、大江にしても中期以降の作品の方が好きだしな。村上春樹と作風が似ているのも本当は安岡章太郎の方が先なのに二番煎じに感じてしまう。多分、あの時代に未成熟であることを書くのはけっこう尖ったことだったのだろう。一種のファンタジーめいた雰囲気で書くのは。戦ってないし(戦ってるのか? 誤読か?)。でも今では未成熟であるのも戦わないのも自分を茶化すのも何ら目新しくない。読み続けるけどね。

 ケチをつけたが安岡章太郎の長編随筆/小説『流離譚』は好きだ。好きな日本の小説十選に入るかもしれない。自分の先祖の足跡を追う話ーー先祖の一人が吉田東洋暗殺犯にして天誅組で亡くなる安岡嘉助だったり、別の先祖も戊辰戦争で亡くなっていたりでドラマチックなエピソードが多いおかげとも言えるが、彼らの足跡を追う安岡の眼差しや文章のトーンがすごくいい。他にも『果てもない道中記』(『大菩薩峠』を読む話)や『私の濹東綺譚』といった似たタイプの作品があるのでいつか読んでみたい。

 追記。安岡章太郎の短編集。「愛玩」を読了。これも村上春樹風の作品だが、春樹よりうまいかもしれない。今のところ「ガラスの靴」と「愛玩」かな。ウィキによると、この二つは川端康成も評価しているようだ。時代的に仕方ないとはいえ女性の書き方が古くさいので、恋愛ものではない方が面白く感じるのかな。

@mayo_fujita
読書日記を書いています。小説メインで色々読みます。古い小説と海外文学、ZINEや同人誌など。