体調が悪い。
意識が朦朧として、自分の輪郭がぼやけていくような感じがする。頭部のどこか、――頭なのか首なのか歯茎なのかよく分からない――がひどく痛い。下半身には特有の倦怠感があり、まともに立っていられない。横になった方向が悪かったのか、かみ過ぎた鼻の奥がツンと痛んでいる。
𓈒𓏸
体調が悪いとき、なぜか混沌の中を泳いでいるような気分になる。意識は曖昧で、なんとなく暖かな、薄ぼんやりとした場所に誘われている気がする。薄れゆく意識のなかで、遠く、お母さんが台所に立っている姿を思い出す。トントンとまな板の音がして、お醤油とみりんのにおいがぼろぼろの身体に沁みわたっていく。
19時のアラームが鳴る。仮眠を終えなくてはならない。わたしは娘に離乳食をあげ、風呂に入れ、保育園の準備をし、洗濯物の山を片付けて、夕飯の支度を完了させなければならない。
いつか、娘が体調を崩してしまったとき、こうして私のことを思い出してくれる日が来るのだろうか。それを望むのは未だ傲慢な気がした。
もう少しだけ頑張らなくては。母親なのだから。