【郵便による書簡 少女から少女のファンへ】
はじめまして。素敵なお手紙、どうもありがとうございます。 随分と奥の深いご感想をいだだいてしまったのだけれど、言葉全部を私に対するものと受け止められるほどに、私は私自身を理解していないのだと実感させられています。 一方で、顔も知らぬあなたの言葉一つひとつが、不思議な魅力をもって私の胸にこだましています。正直、とても嬉しいです。 ユニット宛にファンレターを頂くことはあったのですが、私宛のお手紙はあなたが初めてです。こうして返事を書いているのは、メンバーの提案で、アイドルの我々がお客様の目にどのように映っているのか顧みる良い機会では、との思いからです。 いいえ、それはユニットの参謀を務める者としての建前。本音は、私ひとりの好奇心です。 どうか、私にお手紙をお寄せ下さるあなたにほんの少しだけ興味が湧いてしまうことを、お許し下さい。
【郵便による書簡 少女から少女のファンへ】
──まあ、本当?またあなたに驚かされてしまいました。初めてファンレターをくださった方が稀星学園の生徒さんだったなんて。 正確には、春から稀星学園本校にいらっしゃるのですね。 ひょっとして、以前からアイドル活動しておられたのではないでしょうか。あれだけの情報は、一朝一夕で得られるものではないかと。参謀としても、とても興味深いです。 一体どのようなお方なのか、私はあなたのことですっかり妄想を膨らませてしまっています。 来週にアイドル部で体験入部を兼ねた新入生歓迎ライブを開く予定です。私たちも出るので、是非いらしてくださいね。お会いする日を楽しみにしています。
少し早いけれど、入学おめでとうございます、私の可愛い後輩。 ではまた、ごきげんよう。
【郵便による書簡 少女のファンから少女へ】
こんにちは。こうしてお手紙を出すのも、久しぶりです。 こんな遠回りをする必要もとっくに無いのでしょうけど、この奇妙な関係を終わらせるのはなんだかもったいなくて。学校だと、先輩の前では緊張しちゃって、結局この方がはっきり伝えられますし。 憧れの先輩を前にして、緊張してしまったって構わないでしょう?今もすごくどきどきしているんです。面と向かって伝えられなかったこと含めて全部、ここに書けばうまく気持ちの整理がつくだろうから。
先週の体験入部では、お世話になりました。先輩にお会いできて本当に嬉しかったです。 私、アイドル部に入ります。そして、ステラマリスのメンバーに入って、トップアイドルになるつもりです。 私はこれまで、私一人が輝くために、関わった全てのアイドルを踏み台にして、そうして今の私があると信じてきました。それが私の素地だから、今更隠すことでもありません。でも、式宮先輩と出会って、一緒に踊った時、考えが変わりました。私一人で頂点に立つより、あの方の隣で頂上に辿り着いた時、きっと私はもっと輝いている。そう感じたんです。 でも、その覚悟を決める前に一つはっきりさせておかなければならないことがありました。 歌と踊りを見て初めて私が綺麗だと思ったたった一人のアイドル、それがあなたです、先輩。同業者としてでもなく、一人のファンとして先輩のことをずっと追いかけてきました。そして、それほどの実力と魅力を備えていながら、今の立場ーートロワアンジュの参謀に収まっていること、それに使命感と楽しさを感じていることを、うまく飲み込めずにいました。 同業者に見向きもしなかった私が生まれて初めてファンレターを書いてしまうほどに、私はあなたのことが知りたくて仕方がなかったのです。この疑問を抱えたままでは、私はアイドルとして前に進めないと思ったから。
想像していた結果ではありましたが、手紙のやりとりではあなたのことを深く知ることは叶いませんでした。三人の関係は、きっと文字の言葉で理解できるものではないのですね。 ですがその代わり、そんな私だからこそ、先輩のことで一つ解ったことがあったのです。 式宮先輩と踊った日、そのときの胸の高鳴りと、先輩のトロワアンジュについて話す時の表情を重ねて、似たものを感じました。 そして、これはあなたが手紙で教えて下さったこと。トロワアンジュのアイドル活動は先輩がきっかけなのですよね。先輩が幼稚園のころテレビでアイドルを見て、天葉先輩と始めたトロワアンジュ。そうですよね。その事実が、何にも増して私の朧げな感覚を確信めいたものにしてくれました。 天葉先輩の為に、那岐咲先輩の為に歌って踊るのが、先輩なのですね。
【郵便による書簡 少女から少女のファンへ】
──それでは、あなたがこの学校に入学する以前の話をしましょう。ある日、天葉様と那岐咲さんを私のお部屋にご招待して、お泊まりで秘密の作戦会議をいたしました。その時私たちはある誓いを立てたのです。 私たちの活動に、子供っぽいだとか、金持ちの道楽だとか、心無い意見もございましょう。でも「何があっても私たち三人はありのままのトロワアンジュでまいりましょう」と。 お二人の為に、トロワアンジュの参謀として、どこまでも全てを捧げて尽くしたいと、それが私の使命であり、喜びなのだと。その思いを新たにした、私にとって大切な誓いの言葉です。
そんな昔話を引っ張り出して今ようやく、私はあなたのお手紙の意味を理解したのです、珊瑚。 あなたは、私よりもずっと、私のことを理解して下さっていたのですね。
実はこの話、三人の秘密だったのだけれど…いけません、可愛い後輩のために、つい口が滑ってしまいました。バレてしまっては仕方がないので、これは二人だけの秘密にいたしましょう。もちろん、これまでのお手紙のやり取りも全て秘密です。
p.s.同封した包みを開けてみてください。 見ましたか? …ええと、私の調べによりますとですね、学校でお友達同士になった二人は、相手をより理解して親睦を深めるために、交換日記、を交わすのだそうですよ。…協力してくれるかしら、珊瑚?
【交換ノート 『四月二十八日』】
うんうん、わかります。珊瑚も結構苦いの苦手かもしれません… そしてそして…珊瑚の好きなものは、ずばり、チョコレートケーキです!特にDIVAですかね。口当たりがなめらかで、カカオの香りがもう最高で…!
これで二つ目ですね!どんどんいきますよ、まだまだ質問は沢山ありますから…!大丈夫、奏先輩ならこれくらい平気ですよ!でも、だんだん難問が増えていく予定なので、覚悟してくださいね。 次は何を聞こうかな…うーん…沢山あって悩む。。。 決めた!次の質問は──
【交換ノート『五月五日』】
奏先輩、誕生日おめでとうございます! サプライズ、どうでした?びっくりしたでしょう!! 珊瑚が企画して、碧音お姉さまや瑠夏、天葉先輩、那岐咲先輩が協力してくれたんです。 それに、この日記で奏先輩のことをたくさんリサーチしたからこそです。 どうです、ちっとも無駄なことなんてないでしょう? 素敵な一年になりますように。…珊瑚ももっともっと奏先輩のことを知りたいな。
【交換ノート『八月◆日』】
珊瑚たちのステージ、よく見ててくださいね。そうすれば珊瑚は、奏先輩の為に踊ることができるから。 珊瑚の為、奏先輩の為に、今年は、珊瑚のステラマリスが優勝してみせます。
【少女のファンの手記】
四月から一日と欠かさず書き続けて、早くも二冊目に突入しました。碧音お姉さまとの日々を綴ったこのノートのことです。 でも、明日からはもっと忙しくなりそうです。なぜなら、このノートとは別に、もう二人目の分を書くことになりそうだからです。