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aiguille

yonoharu
·
公開:2026/11/5

「今、少しお時間よろしいですか」

「(もぐもぐ)……はい」

デスクで昼飯を頬張っている時など、絶対に今ではないタイミングでしか話しかけてこない後輩がいる。仲は別によくない。なんなら年齢と社歴が逆転しており、私のほうは気にしていないが向こうにとっては普通にちょっと気まずい感じの距離感に見えるから(異性でもあるし)それでよくも人の咀嚼中を狙ってわざわざやってくるなと感心する。まあ実際には何も考えてないだけなんだろうけど、ただその何も考えていなさこそが他でもない「舐め」という態度の表出に見えなくもなく、それ、他の先輩の前でも同じことできんの?とは若干思う。

しかし私は、生身の人間のことは全面的に嫌いではなく、その上、対面すると情けないかんじの愛想だけは無限に湧いてくる方なので、こういう時であっても、なんだかなあと思いながらもむしろ自然な笑みを作りながら、体はすでに応じ始めている。相手がだれであれ、用件が何であれ、向けられる態度やタイミングがどうであれ、話しかけられるだけでいくらかは一定の嬉しさを受け取れてしまうから。社交をやっていく能力はそれほど高くないのに、心持ちだけはずっと社会の方を向いている。それだから、やってこれているのかもな。それだからやってこれているのか。

人懐っこいといえばそうだし、依存的といえばそれもそう。本当にそう。もうすこし、人に構われないで、人のことも構わないで生きていられたら、今抱えているややこしいこと困難なこと、気がかりなことの大半は、片付いているはずなのにな。むずかしい。人懐っこすぎるぐらいに人が好きなくせに、それと同じぐらい人に心を許せない方でもある。だから、まともに警戒心が解けるまでのあいだはずっと、針のむしろに立たされることになる。何年も何年も、つめたい針を食い込ませながら立っている。いるだけで血まみれになりながら、それでもまだ、まだここで待つんだと言い張り、しびれた足を踏み替えながら人を待っている。針がびりびり皮膚に食い込む。

人が嫌いなのに人が好き。そして、人がおそろしく苦手。

@mecks7
労務と微熱 ▶︎lit.link/yonoharu