①冬
出会ったのは2024年1月末、まだ冬のロングコートを着ていた。
お店に入って来た彼は、友達と思われる女性とバイバイした後に1人でじっくりと家具を見ていた。金髪でひょろりと背が高い、私と同じくらいの年齢だろうか。しばらく彼が家具を見る様子を見守り、タイミングを見て私が接客で話しかけた。聞くと、家に家具がほとんどないらしい。マットレスを床に直で置いて寝ているが、そろそろベッドが欲しいと彼は言う。近くに立つと、本当に背の高い人だなぁ、と接客しながら心の中で改めて思った。
しかし不思議だ、珍しい。20代くらいの若い男性で、うちの家具を興味深く見る人は珍しいのだ。知ったきっかけを聞いてみると、「仕事の関係で知ってて」と答えた。なんだ?林業なのか…?こんな金髪の人が…??と更に不思議に思い、おもわず私は「ちなみにご職業って…」と聞いてしまった。(普段は聞かない)「僕、○○○で編集者をしていて。昔△△△さんの記事のインタビューに同行したんです」と、彼は嫌そうな顔もせずサラサラと答えてくれた。なんと!あの○○○…!!お店だったので大声こそ出さなかったが、私は目一杯目を見開いて驚いた。驚きと気持ちの高まりが抑えられなかった。だって私が自分の職場を良いなと思ったのは、そのサイトの記事を読んだのがきっかけだから。あの記事を読まなければ、今私はここで働いていない。私は○○○の記事が大好きだった。そんな○○○の人と出会えるなんて思ってもいなかったので、つい嬉しくて私は職場に入ったきっかけを興奮気味に話した。というか、聞かれてもいないのに話してしまった。その時はベッドの接客中だったので、彼はベッドの上ですのこの感触を確かめて、私はその近くにしゃがんでいて。その状態で10分くらいお話しした。側から見たら変な状況だったかもしれない。何を話したのか全ては覚えていないが、どんなものにお金を払うか考えた時、△△△の様な自然と環境に配慮した会社にお金を落としたい、とか言っていたのは覚えている。あぁ、嬉しいなぁ。とじんわり思った。そこに共感して実際にお金を出せる若い人は中々いない。(もちろん、家具を選ぶ理由は自由でなんでもいい。)
その時の彼の第一印象は、優しそうでいかにも良い人そう。そして話しやすい。でも、ただ優しいだけじゃない、芯がある感じが伝わってきた。上手く言えないけど、彼の選ぶ言葉は心が通っているような、みんなとは違う彼だけの言葉だった。あ〜もっと話してみたい、きっとこの人は面白いだろうな、と思った。それだけじゃない、私は彼の雰囲気、特に笑顔にすごく惹かれた。彼はお店を出る直前に名刺をくれたけど、さすがに初対面でLINEを交換したりご飯には誘えなかった。(しかも私は接客中だしね…)そんなこんなで、彼はベッドを見終わりお店を後にした。
また会えたりするかなぁ、なーんて思いながら、大好きなあのサイトで働いてる人でしたよ…!!と店長に伝えて、その日は終わった。印象に残る接客ができた日は、良い日だったなぁといつも思うのだけれど、その日も良い日だった。心がじんわりしていた。