距離の詰め方がバグったコミュニケーションの化け物

megaya
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私は人との距離を詰めるのが苦手だ。数値で言えば1か50か1000の3択でしか接することができない。

1の接し方はただ会話に相槌を打つだけの存在、50はそれなりに自分を出して会話をする感じ、1000は一緒にカラオケに行けば全裸になる状態。私のコミュニケーションという名の自転車のギアは3段階しかないうえに設定がめちゃくちゃになってしまっている。

大人としてこれではいけないし、直さねばならない。このままでは初対面の人との関係を構築することが困難である。もっとギアがいっぱいある大人仕様のロードバイクを乗りこなさなければ。

そう悩んでいたのだが、最近になって私よりもさらにひどい人が周りにいることに気づいた。友人のOさんだ。Oさんは人との距離感がバグっている。私の3段階ギアどころではない、彼女はギアがついていないママチャリで荒れ狂う山道をゴリゴリと車体を削りながら登っていく。そんな感じの距離の詰め方をしている。

無論、私はそれが嫌というわけではない。そのコミュニケーションの取り方で、救われている人も大勢いるはずだ。距離感のバグは彼女の長所なのである。

しかし、Oさんは気遣いの人であり、周りに常に気を配る心優しい女性だ。そして繊細なのである。ただ、コミュニケーションという基盤がバグっているので、とても人間的にアンバランスになってしまっている。

例えばこんな出来事があった。

私とOさんでSNS上でふざけた会話のやりとりをしていた。Oさんとはそれなりに仲が良い友人(と私は思っている)なので、私が最終的に「それは草」のように雑に返して終わった。友人同士ならなんの変哲もないやりとりであろう。

しかし、上記のやりとりのわずか1分後、OさんからDMが来ていた。なんだろう?と思って開いてみると、

「いつもだる絡みしてごめんね、嫌な時はちゃんと調整するから言ってね」

という謝罪の連絡だった。私は混乱した。さっきまでの和気あいあいとしたやりとりはなんだったんだろうか。私がなにか言い過ぎてしまったのだろうか?と悩んだ。

とりあえずOさんには「私はそういうのは気にする人間じゃないので大丈夫ですよ」という返信をしておいた。どうやったら友人(と私が勝手に思っているだけかもしれない)に対してそこまで情緒不安定になれるのだろうか。気を遣いすぎて怖さすら感じる。

しかし、かと、思えばだ。

また別の日にはDMが届いていて、開いてみると、

「今度、1on1で話さない?」

という誘いが来ていた。Oさんの中で私の評価はどうなっているのだろう。不思議である。恋愛ゲームだとしたらめちゃくちゃに攻略がムズい。感情の振れ幅がピーキーすぎて、作ったゲーム会社に抗議を入れたい。攻略本をくれ。

もう一度言うが、Oさんは距離の詰め方がバグっている。このままでは友人(だと思っていたが自信がなくなってきた)としてコミュニケーションが取りづらい状態が続いてしまう。なにかあるたびに謝罪されてしまっては敵わない。

ということで、Oさんに直接会う機会があったので、そのときに以下のようなことを伝えた。

「私は学生時代はイジられるキャラだったので、どんな雑な対応でも気にしませんよ。DMで謝られると私が悪かったのかな?と考えてしまいます。もっとガンガン来ていいですよ」

Oさんは私をじっと見つめて数秒考えにふけり、その後に笑顔で「わかった」と答えた。

ふぅ、これで解決である。友人(とようやく言える関係になったのかもしれない)としての関係も良好になるはずだ。Oさんが私に変に気を遣って謝ることもないだろう。

しかし、このやりとりが世紀の大々々々々々々失敗であった。何度でも言おう、Oさんは距離の詰め方がバグっているのだ。

つい最近こんなことがあった。

私はOさんの地元付近に行く予定が出来たので、せっかくだから彼女と現地で会おうと思って連絡をしてみた。すると雪崩のようにこんな返信が連続で届いた。

「夜からでも次の日の朝からでも合流してあそぼー!みんなであそぼぉ!家泊まっていって!」

「用事が終わった時間に旦那といっしょに市内に迎えに行くから!!」

「1人で堪能する時間必要なときは遠慮なく言ってください。意思表示がない場合には同意と勘違いする可能性があります」

圧がすごい。最後のは誘いではなくもはや脅迫である。そして極めつけは以下の文章だ。

「とりあえず逃れられないように専用の布団買っとくわ」

最後にもう一度確認しよう、Oさんは距離の詰め方がバグっているのだ。私はOさんを気遣いの人だと思っていたのだがどうやら違った。気遣いをまとって人間のフリをしている怪物だった。彼女はギアなしのママチャリで走っていたわけでなく、裸一貫で荒々しいコミュニケーションの山を登っているのだ。夜叉猿だ。

しかし、私に対する距離感をバグらせてしまったのは、紛れもなく私自身の一言である。彼女のギアどころかブレーキを私が外してしまったのだ。もはや彼女が止まるときは、私と友人(と呼んでいいのかわからない)関係ではなくなる時であろう。

私自身がコミュニケーションをとるのが下手だからこうなってしまったのだろうか。もっといい選択肢があったかもしれない。友人(という名のモンスター)との関係はこれからどうなっていくのだろうか。

とりあえず化け物であるOさんの意向に従わないと恐ろしいことが起きる気もしたので、専用の布団を甘んじて受け入れてみようと思う。この選択をしたことで再び彼女のコミュニケーションの基盤にバグが発生しないことを願うばかりだ。