美しき冬晴れ

巡里 廻
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なんという題の作品だったか忘れてしまったのだが、かつてなんらかの教科書に載っていた文学作品で、冬の日差しのことを「鋭角」と表現していたものがあった。冬になると太陽の南中高度が低くなるためそのように表現したのだな、と当時は表現の巧みさを感じたものだ。

その頃の自分はまだ物語などを書いてはいなかったが、その表現がとても気に入っていて、そのほかの情報が綺麗に抜け落ちた今でも、こうして記憶に残っている。

2024年・元日。私の住まう地域は抜けるような晴天に恵まれた。今期で一番綺麗な冬晴れかもしれない。冬の早朝特有の、低い位置から差してくる陽光はまさしく鋭角のそれで、運転中の目を眩ませた。暖冬だなんだと言われていても、原付で風を切って走れば、例年と変わらない冷たさを感じる。しかしそんな冷たい空気を吸い込むと、頭がすっと冴え渡る様な心地がする。意外とこの感覚が、嫌いでは無い。

思ったよりも世間の人は活動的で、毎年毎年多くの人がこぞって買い物にやって来るのを見ると、やや信じられないような気持ちになる。それはたぶん、私が長らく正月に休みなどない生活をしているせいで、元旦から買い物をしようという気力がないからだ。毎年それなりの連休が与えられ、家族が一堂に会する機会とあれば、出かけ時なのだろう。

私が元旦の買い物客を見ることになるのは、今年で最後になる。来年の元旦もおそらく私は仕事をしているが、このような賑やかな喧騒とは無縁の場所で、何らかの雑務をしているのだろうと思う。

今の仕事に就いて八年余り。私の年齢から考えれば、さほど長くもない職歴のはずだが、若い頃に職を転々としていたことを考えれば、よくもまあこれほど長くここにいたものだ。いや、きっと上司がきちんと尊敬できる人であれば、会社の方針に納得できれば、もっとここにいたはずだった。職を変えるにしても、もう少し時期を選ぶつもりだった。

勢いというものは恐ろしいものだが、逆に、そうでなければ職を変えることもなかったのかもしれない。採用頂いたところにも、時期が違ったら採用されなかったかもしれないし、ある意味で全てが噛み合った結果ともいえるだろう。

――ともあれ。最後に見る元旦の店の賑わいが、美しい冬晴れの日であって良かった。そんな思いが、今はある。

もう二度と、正月に販売なんてやりたくないけどな!

@meguru
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