沈まぬ太陽

mellowdy
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公開:2025/1/29

去年の年末から少しづつ読んでいた山崎豊子の「沈まぬ太陽」を読了した。

本で扱われているのは日本航空の123便御巣鷹山墜落事故にいたる経緯とその後処理の過程で判明した利権構造を描いた群像劇である。山崎豊子の小説を初めて読んだが、昭和の時代の表現が極めて具体的かつ明瞭で、当時の人の扱いの軽さに驚いた。特に序盤で扱われる「アフリカ篇」では、苛烈な報復人事を緻密な取材の上で描いており、そのリアルさに胃が痛くなる。前半の主人公が10年にわたり世界の各地を転々とさせられる様子は、現地の暮らしそのものもきついが付き合わされる家族のいたたまれなさも印象的だった。

中盤の「御巣鷹山編」は、利益を追求するあまり安全をないがしろにした日本航空が、世界最大の航空事故を起こすその凄惨な様子を描いている。この場面を読んでいる間、事故現場の悲惨な描写に気がめいってしまった。また、事故に至る経営陣の判断の酷さは、我々はこの事件を忘れてはならないと感じる。「安心安全」を標榜すべき企業において、このような事件が起きたのは非常に痛ましく、怒りを覚えた。

最後の「会長室編」は事件を受け新しく会長に就任した国見が日本航空の再建を目指す物語である。このころの日本航空は政治家を巻き込んだ利権の巣窟になっており、一人の経営者が強い意志を持って改善に取り組んでも到底改善できるような状態ではなかった。政治家の利権にメスを加えるとしっぺ返しを食らう、ということはまことしやかにささやかれている。本書で描かれているような理不尽がまかり通ったと知り、世界最大の事故をもって尚、親方日の丸体質が改善しなかった事実に唖然とした。

本書はここで終わるが、日本航空はその後も体質が改善せず、最終的に2010年に経営破綻する。当時自分は小学生であり、あまりその意味することを知らなかったが、本書を読み倒産は必然だったのだと感じた。

JALは近年「マシになった」といわれることもあるが、ここ5年の間でも操縦士が飲酒をしたまま操縦しようとして逮捕されたり、別の事件では乗務員が飲酒した事実を隠蔽しようとしたなど、到底クリーンな組織とは言えない事案が続いている。再び航空事故が起きないことを願うばかりである。