短編: 求肥

melonica
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公開:2024/12/28

乳白色の分厚くてやわらかい膜につつまれて、あたたかい小部屋のなか準備をしている。

何の?

生まれる準備。

もう何度目かすら分からない生まれる準備をしているの。

沢山のお喋りに急かされて、甘いミルクコーヒーと一緒に生まれてくる道を流れる。そうして、この世で最もしあわせなお喋りの種になるのを待っている。薬罐はもう沸いていて、周りの準備も周到だ。

ティータイムのお喋りほど楽しいものはこの街にないから(いや、町というべきか)。そのことを僕は生まれる前から知っていて(どういうわけか)、そこで生じるあらゆる退屈の種類を数えて生まれる時を待っていた。

天国で石になって、生まれる準備をずっとしていた。それは水滴が垂れて身に穴が空くくらいの年月。だからずうっと、求肥につつまれて待っていた。ただひとり、求肥にくるまれて待っていた。白い、白いもの、白い日、雪の日。雪の日に生まれることを知っている。ミルク色の波、まだ見たこともない雪。それをわたしは知っている(I know)。なつかしく、ミルクみたいに白い雪。そのときわたしは石の形をしていなかった。

気が付いたとき、わたしは既に生まれていて、やわらかいガーゼのおくるみにつつまれていた。それは最早、求肥ではなくてわたしは心底淋しかった。だからあなたと出会ったとき、餡蜜のなかの求肥に出合えてうれしかった。それも白い雪の日だった。

@melonica
短歌 エッセイ 北の生活