今日は会社の同僚である年上の友人のご自宅にお邪魔させてもらった。
友人と呼ぶこともしっくりこないので彼女と呼ぶが、彼女とは会社でよく話す。会社で話すには適切ではないくらいの込み入った話(具体的には彼女がお付き合いされている恋人のあれこれ)を持ちかけられることが多く、二人の関係も佳境であるようだったので休日に時間をとってゆっくり話したほうが良いだろうと思って、今日は会ったのだった。
彼女から恋人の話はもう1年以上聞いており、最近は関係を続けることが難しいような状態だということも知っていた。ご自宅にお邪魔した時、恋人もわざわざ私を出迎えるために自宅で待っててくれていて少しお会いしたのだが、その短い時間の中の二人の会話だけでも、その関係が思わしくないことが感じられるほどだった。
恋人が外出した後、彼女と私は自宅に来る途中で買ったバケット(と成城石井で買ったチーズと生ハム)を食すことにした。
彼女が「どれをバケットに合わせて食べる?」と言って、冷蔵庫から棚から次々と様々な瓶を持ってきてくれた。マーガレットジャム、恋人がフランスで買い求めたというあんバターに似たハチミツ、世間では有名だというピスタチオクリーム、恋人が甘いものが好きで買ってきたというマロンクリーム…一人では買わない、食べきれない量の瓶たちを見て、私はこの二人がこの生活をどれだけ愉しんできたのかを感じた。
彼女にバケットのおすすめの食べ方を聞くと、手慣れた様子でバケットを切り、トースターで焼いて、贅沢なほどの量のバターとチーズと生ハムを挟んだものを作ってくれた。いつもこの食べ方をしているのかと聞くと、恋人が教えてくれたのだそうだ。
このように構築され、お互いに馴染んでいる二人の生活に対して、思わしくない二人の関係の関係のアンバランスさに少しだけ淋しい気持ちになった。
夕方ごろ、体調が優れないと言って帰ってきた恋人は、私たちに気を遣ってすぐに自室に入ってドアを閉めた。しばらくするとドアの奥から何か打つような籠った音が聞こえ始めた。彼女が言う。「これは彼がイヤホンをして電子ピアノを弾いている音なの」。打ち付けるように力強く叩く鍵盤の音を悲しく続いた。