2024/1/13

meme_letter
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今、他人に話すべきではなかったことが多かった日だった。美しいナポレオンパイと、立派な烏賊の姿焼きだけを記録する。

でも、一つだけ、一等に美しいことがあった。昼過ぎに浅草暮らしの同居人だった友人と待ち合わせて、取り置きいただいていた同人誌をお渡ししつつ、ナポレオンパイを食し、そのまま青山から表参道をぶらぶらと練り歩いた。行きたかった山陽堂書店から、AEON、「力の飼育方法」というタイトルの展示を巡り、勢いづいてイッセイミヤケの青山店に入ったのだ。

今日はあまり混み合っていない日だったようで、ブランドライン一つ一つを巡るたびに店員さんが丁寧に説明してくれる。

仕事用にフォーマルな洋服、スーツのようなものが欲しいと思っていた私は、IM MENという男性向けのブランドラインの中で、一つのジャケットとスラックスのセットアップに出会った。美しい光沢を待つ黒色で、空気を含ませた糸で織られているという生地でできたそれらは、アクセントに体の可動域部分に合わせてシンプルなプリーツが入っていた。

ジャケットを羽織ったら、空気を纏うような軽やかさが心地よくて、店員さんのお言葉に甘えて、スラックスも試着させてもらう。男性モノだから、腰回りが緩いかもと言われて、真っ白なベルトも渡されて、着てみると、まるで私ではないような、理想の私の姿があるのだった。

ジャケットの下には、私物の黒のタートルネックを着ていたのだが、全身黒の中で、ハイウエストに締めたベルトの白が美しく映えた。そして、少しオーバーサイズのジャケットと、すとんと真っ直ぐに足に合わせて落ちるスラックスから生み出されるラインの美しさに惚れ惚れしてしまった。

久しぶりにこんなに夢見心地になるような服を身に纏った気がする。今でもあの煌めく星のような美しさを思い出すと、心が震える。

しかし、これでは仕事にますます邁進するようになってしまう。そう思った帰り道、表参道から自宅まで歩きながら、大学の恩師の前ではあのセットアップは着れないと思った。なぜなら、恩師こそ私にイッセイミヤケの美しさを教えてくれた、大のイッセイミヤケ愛用者であったからだ。先生の真似をしていると思われることが恥ずかしいから着れないと思った。でも、その発想を裏返して、恩師の前であのセットアップを着れるなら、どんな自分だろうか、と考えた。

母校である大学の人文系の教授陣が入っている棟の最上階である8階の一番端の研究室、そこに恩師はいて、セットアップを纏った私がその研究室のドアの前に立つ時、左手には自分で書いた論文の紙束が入ったファイルを持っている。

今日考えたのはそんなイメージだった。