キャズムを超えた昨今の IT エンジニア時代と生存戦略

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10 年前までは,エンジニアはこき使われて報酬もままならなかった。私なんて手取り 16 万ボーナスなしの時代を送っていた。

会社の財形貯蓄制度に入ってないという理由だけで昇給額を減らされたこともある。会社のいいなりだったのだ。

時は経ち,先人たちの努力も多くあり,国の政策も功を成してきたのだろう。

スタートアップ支援資金や IT 補助金によるスタートアップ同士の相互作用などもしかり。

スタートアップの設立が爆発的に伸び,10 年前から少し時が経った時代において IT の需要が高まった。また時代は DX という時代に移行しつつあり,大企業でもエンジニアの採用を急ぐようになった。

それゆえに,需要に対して供給が追いつかなくなった。そして何よりも爆発的に設立されたものの,エンジニアを採用するためのノウハウが広く認知されていなかった。今までのやり方では採用なんてできなくなったのである。

おそらく,ここでハードスキルが高ければきっと良いプロダクトが作れるはず、優秀なエンジニアであるはず、などのような仮説を立てて採用を進めることになるのである。

供給も足りないことから,エンジニアの争奪戦が始まり,エンジニアの地位は格段にあがった。報酬もハードスキルさえあれば,一本超えることもザラに。

これに目をつけたエージェントや,採用媒体などが増え始めた。今やエージェントはエンジニア採用において,従来 30% ほどだったマージンが,50% をも取るエージェントも増えてきた。

そして,次の波であるプログラミングスクール。特に悪質なプログラミングスクールは一本を超えている人材が山ほどいる、あなたもそうなれるかもしれない,と良い面だけを切り取り異業種転職を吹聴しはじめた。

プログラミングスクールの挫折率は 9 割ほどという言説があるが,残りの 1 割は実際に私達と同じフィールドで戦っている。しかし,一本を超えてる人材は稀有だろう。

世で営業しているプログラミングスクールの入会者数すべてを鑑みると,数百万人以上はおそらく受講しているだろう。その中の一割がエンジニアとしての能力を開花させている。彼らはいわゆるアーリーマジョリティであると言える。

一方で,スタートアップの設立というのは毎年数千規模である。さらに,エンジニアの採用のノウハウもエージェントたちの介入,VC のネットワークなど様々な要因から徐々に成熟傾向にあるように見える。

そして採用に我々が悩んできたからこそ,エンジニアの採用方法などの資料などもネットであふれるようになってきた。

ここで一つキャズムを超えていると見ることができる。イノベーター,アーリーアダプタやアーリーマジョリティたちを見て我もとレイトマジョリティたちが参画し始めてきており,一定スキルラインのエンジニアたちは飽和状態にあるように見受けられる。

ハードスキルだけで,いわゆるボリュームゾーンと言われる 600 万から 700 万を出していたような求人でも,ソフトスキル,いわゆるコミュニケーション能力を求める旨などが採用基準に増えてきているように感じる。徐々に企業の採用基準も高まってきているのである。

特に彼らの多くは会社に所属せずフリーランスとして,自由な働き方を渇望してエンジニアになろうとしたはずだ。しかし,似たような働き方をしたいと考える競合のエンジニアが残念ながら多くなりつつある。先ほど述べた飽和状態とはこのことである。

似たようなハードスキルを持っているエンジニアが増えているのだ。

ゆえに,エンジニア採用のノウハウがある程度確立されてきた昨今で,それは相反しているようにも見える。

今までフリーランスとして働いていたがエンジニア正社員という道を選択する人材も少なくない。フリーランスをヤマネコだとすると,これはまさしくヤマネコがイエネコになる現象,瞬間であり,イエネコ化である。

つい最近まではハードスキルの持ち主だけでも重宝されていたが,時代が移り変わり,以前よりもハードスキルの持ち主も増えてきたことで,優位な立場にいたエンジニアのほとんどは会社と対等になってきた。

会社は自分たちの事業をスケールさせるために採用に躍起になっているが,今やハードスキルは当たり前に持っており,ソフトスキル,事業やプロダクトのことを考えられるエンジニアを求めている。

そういったエンジニアはまだまだ少ない。そして,そういったタイプのエンジニアの採用方法はまだまだ確立されていないのである。なぜなら依然と需要と供給が歪であるからだ。ノウハウがまだまだ足りないのである。

ハードスキルさえ磨けば報酬が一本を超える世界線は終わりが見えつつあり,もう数年経つとラガードに差し掛かるんじゃないだろうか。

仮に,唯一無二の技術的スキルを持っていたとしても,会社がそれを活かせられなければ,ただの宝の持ち腐れになってしまうのである。そもそも経営レイヤーは活用の方法を知らないのが大半だ。愚かに見えるかもしれない。しかしそれは違う。経営者の殆どは経営初心者なのだ。起業して間もないのだから,初心者に決まっている。ましてやエンジニア出身の経営者でなければなおさらである。私達は経営者に対して期待値が高すぎるのだ。

ゆえに,会社に取って渇望するような人材にならなければならない。事業にどういう技術を当てはめればスケールさせられるか,プロダクトにどのように技術を使えばスケールするか,顧客が喜ぶのか,そのための技術戦略を考えられるエンジニアに成ることが生存戦略の一つだと私は思う。

ただ,例外もある。汎用的に幅広くハードスキルを持っているフリーランスエンジニアなどは需要はまだまだ高い。例えば,AWS も GCP も Azure も扱えて,フロントエンドもバックエンドも言語問わずかけて,アプリも作れる,開発が尋常ではないくらい速いフリーランスエンジニアだ。

スタートアップは採用に時間をかけられないという制約もあり,まとめて開発できる人材というのはとても重宝するのである。ゆえに,一本を超えているフリーランスエンジニアというのは依然として居るのである。

ヤマネコがイエネコとヤマネコに分離していったように,ハードスキルに加えてソフトスキルやビジネスセンスも磨き,企業の一員としてのイエネコルートにいくのか,凛々しくも,たくましくハードスキルを極限までに磨き続ける,フリーランスとしてのヤマネコルートにいくのか,どちらの道を歩むかで今後の情勢が変わってくるのかもしれない。

みたいなことを考えていたら,土曜日の午前中が終わって最悪になってしまった。