映画『夜明けのすべて』の感想

みや
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三宅唱監督『夜明けのすべて』の感想です。2024年3月4日鑑賞。

肌寒い夜に温かい飲み物が体にじんわりしみていくような優しい映画。

それぞれに苦しさを抱えた主人公二人が、日常の小さな交流を通して心を寄り添わせていく様子、それを見守る職場の人たちや友人たちの眼差し、そしてその人たちもまた様々な事情があって……。どの登場人物、どのエピソードをとっても優しさと温もりに溢れていて、順番に好きなシーンを並べる感想になりそう。

藤沢さんがPMSで不安定になっているシーンや、山添くんのパニック症候群の発作が出るシーンなど胸が苦しくなるところもあるが、刺激は抑えられていて安心して見ることができた。

 

どのやりとりも本当に素晴らしいんだけど、藤沢さんが山添くんの髪を切ってあげるシーンから作品にぐんと引き込まれた。2人の間で何かが変わり始めた瞬間でもあったと思う。演技であの雰囲気を出せるの、主演のお二人ともすごすぎる……。

予告にも入っている山添くんの「一人で怒っててもらっても良いですか?」という台詞とあのエピソードも大好き。一見突き放すような言葉だが、共感やなだめるだけが寄り添う方法ではないよなあと感心した。PMS由来の苛立ちを藤沢さん一人で抱え込むのも、他の人にぶつけてしまうのもしんどい。そんな時にただそこにある事実として受け入れて、とりあえず避難させるのは山添くんなりの寄り添い方だ。その後の向き合うわけでも会話があるわけでもないけれど二人並んで洗車する姿もなんだか象徴的だった。

移動式プラネタリウムの準備を通して二人の関係と心境が少しずつ変化していく。「三回に一度なら助けられるかも」という言葉と思いが本当に良くて……。

そして、山添くんが藤沢さんの忘れ物を届けに行くシーン。あの山添くんが……一人だけ栗田科学の作業着を着なかった山添くんがなんでもないようにそれを羽織って、藤沢さんがあげた(置いていった)自転車に乗って、わざわざ彼女の家を訪ねる。その姿と表情を丁寧に追っていく映像。ベランダに出て見送る藤沢さんの横顔。二人のやりとりはインターホン越しの「忘れ物届けにきました」「ありがとう」くらいのものだけど、ついに何かが実った瞬間のような気がした。この世の優しい光がすべてスクリーンに収められたみたいなシーンだった。

 

「夜明け前が一番暗い」をはじめとして、社長の弟さんがメモに残した言葉とプラネタリウムのシーンはまだちゃんと噛み締められてない……。原作を買ってあるので、読んだらまた感想を書きたい。

主人公二人を見守る栗田科学の人々もみんな素敵だ。中学生二人がドキュメンタリーを撮っていて、その中で山添くんが心境の変化を語るのも素晴らしい演出だった。

移動式プラネタリウムについて楽しそうに語る山添くんの姿に、彼を気にかけていた元上司が(亡くなった姉を重ねていた部分もあったのかもしれない)感極まって涙を流すシーンももらい泣きしそうだった……。

スクリーンに映っている外には厳しく苦しい世界があることを予感させながらも、栗田科学はあたたかいユートピアみたいに思える。ずっとここにいたい……という気持ちに応えるように、エンドロールで栗田科学の日常の風景が流れ続けるのもよかった……。最後まで優しい光に満ちた作品だった。

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