スローガン is サイコガン

metayuki
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授業で都知事選について触れた。このところ目につくトピックだし、デザインやコピーの観点とか経済的な観点からの話題として考えても、興味深いものだと思った。

7月3日付けの読売新聞オンラインの記事では、都知事選の執行費用は59億2400万円で、1979年以降で最高額になりそうとのこと。その一因は、ご存知のとおり、候補者の乱立によるもので、税金の使途として疑問が噴出するのは当然と考えられる一方で、業務委託を受ける業者は忙しくなり、売上が伸びるということも考えられる。最近はいろいろ見直しもされているようだけれど、いわゆる「選挙特需」という考え方が廃れてしまったわけではない。人が動くのだからお金が動く。

供託金についての報道もずいぶん見かけるようになった。N党のあの人が「都知事選で得られる宣伝効果は1億円ぐらいある」と発言していて、それはそう。その点は以前から指摘されていただろうけれど、今回ほどの事態にまでしっちゃかめっちゃかにはならなかった。と書いて思ったけれど、都知事選だからそんなに話題になっただけであって、地方の選挙では似たような事態がとっくに起きていたのかもしれない。

授業ではコピーというかスローガンの面からも話をしてみた。スローガンは連呼されるもので、立候補者から有権者への約束であるのだけれど、今回の都知事選はあまり強いスローガンはなかった。と、僕は捉えている。争点がないわけではないだろうけれど、公約で戦うつもりではなさそうというか、都知事になるのだ、ということくらいしかポスターからは読み解けなかった。

アメリカ、フランス、そしてイギリスと、世界の国々でも選挙戦の只中で、デザイン的、コピー的には、海外の事例の方が強烈な印象を受けた。

イギリスの「リフォームUK」という政党は、もともとブレグジット党だったところで、スローガンが「BRITAIN IS BROKEN. BRITAIN NEEDS REFORM.」である。「イギリスはぶっ壊れてる。リフォームが必要だ。」というわけで、どこの国も「ぶっ壊す」的な言い回しが出てくるタイミングがあるんだなあ、などと思った。「リフォーム」といわれると家造り方面がぱっと浮かんでしまうけど、もちろんこれはそんな意図ではないだろう。

「自民党をぶっ壊す」という言葉が世を席巻したのは2001年のことで、ちょっと前のことのようにも、思ったより昔のことのようにも感じる。ぶっ壊した結果がどうなったか、そもそもぶっ壊せたのか、などなど、視座によって意見も異なるだろうけれど、コピー的に、スローガン的にキャッチーで、ブレイクスルーを期待する人の心を掴んだことは間違いない。

スピーチライターがどこまで関与しているのかは知らないものの、言葉が人を、政治を動かしていくという側面はあって、デザインも同様である。広告代理店がその役割を務めているケースも少なくない。ともあれ、言葉を扱う職業の端くれとしては、短い言葉がどんなふうに武器として磨かれていくのかということを忘れないようにしないとなと思う。言葉の怖いところは、手に持った武器というよりは、フック船長のフックとかコブラのサイコガンとかみたいに、その人の言動と切り離せない武器になってしまうことだ。いや、ほんとに。

@metayuki
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